エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時:

平成29年11月30日(木) 14:00 〜 17:00

場  所: 福井商工会議所ビル 地下 国際ホール
主  催: 福井県環境・エネルギー懇話会
共  催: 近畿・北陸エネルギー教育地域会議(資源エネルギー庁)
後  援: 福井県教育委員会
福井市教育委員会
■実践事例発表U

テーマ

札幌市立白石中学校のエネルギー環境教育の紹介
発 表:

札幌市立白石中学校 教諭 森山 正樹 氏

(要旨)

1.北海道のエネルギー消費の現状から

 本校は昨年度まで、エネルギー教育モデル校として実践してきました。本日は、その内容の幾つかを発表したいと思っています。

 札幌市で行われた「環境広場さっぽろ2015」というイベントで、北海道ガスの展示の中に「北海道は家庭で使うエネルギー量が日本一」という文言がありました。冬、寒い中暮らしているので、暖房で多くのエネルギーを使っているからです。私は、エネルギーを最も多く使っているのは東京だろうと思っていたのですが、北海道の家庭が一番多く使っていると知ってショックを受けました。このことはやはり子どもたちに伝えていかなければならないと感じています。

 今年の展示には、内訳が載っていました。すると、北海道の家庭は電気だけでなく、いろいろなエネルギー資源を使っているのです。だからこそ、北海道でエネルギー・環境教育は必要であると強く感じました。

 本校は3年間、「持続可能な社会を実現するために」というテーマを掲げ、モデル校として活動してきました。サブタイトルは「横断的な教科学習のカリキュラムの構築」です。今日はこれまでに実践してきたことを三つ紹介したいと思います。特に、「高レベル放射性廃棄物の地層処分を考えるモデル実験」の実践は、日本エネルギー環境教育学会の福井大会で実践論文賞を頂きました。

2.断層を題材に育むリスクリテラシー

 一つ目は、中学1年理科における、断層の学習を題材にしたリスクリテラシーを育むための実践です。中学1年の理科では、啓林館の教科書は「活きている地球」という単元なのですが、断層について学習します。その発展として、自然災害によるリスク、新幹線利用によるベネフィットを総合的に考えて、リスクリテラシーを育むための学習を開発・実践しました。

 まず、リスクリテラシーには三つの定義があるのですが、特に押さえておきたいのは、意思決定や行動する資質・能力を育む部分です。この力をつけたいと思いました。

 その題材としては、1930年に発生した北伊豆地震を挙げました。地震発生時、丹那トンネルを掘っていたのですが、地震によってトンネルをよぎる丹那断層が水平方向に2mずれ、掘っていた穴がふさがってしまったのです。これは教材化できると思い、すぐに丹那断層を見にいき、教材化しました

 断層の学習では露頭などを観察することになっているのですが、なかなか難しいのです。そこで、断層が入っている石を子どもに見せて、地層がずれていることを認識させると、子どもたちは興味を抱きます。その後、そこにどんな力が働いたのかを子どもたちが調べ、モデル実験を行いました。まずは、小麦粉とココアパウダーを交互に重ねて地層を作る実験を試行錯誤しながら行いました。ヘラで押して逆断層を生じさせ、そのような力が地盤の中で働いて断層が生じるということを理科的に学習するのです。

 その後、先生が日本各地の断層を示すのですが、その一つが丹那断層です。丹那断層公園には横ずれ断層が保存してある所があり、先生がそれを見てきたことを紹介します。その中で、実は活断層は特別ではなく、日本中どこにでもあると説明しながら、丹那断層の話に移ります。

 まずは、ベネフィットの確認です。なぜトンネルを掘ったのかということです。トンネルを掘る前は、東京から関西まで電車が向かうには、御殿場を経由して、急な斜面を通って苦労して通っていました。しかし、このトンネルを掘ることで流通も楽になるし、経済面も観光もよくなります。それで、当時の最新技術を使ってトンネルを掘っていったことを確認しました。でも、この後、断層が生じて、苦労してトンネルが開通しました。あなたは、断層のあるトンネルを通過する新幹線を利用しますかという授業です。

 すると、「利用する」は20名、「利用しない」は9名でした。理由は「またずれるかもしれない」「危ないから」「危ないけど便利だから」などいろいろあるのですが、ある生徒は「100年に1回しかずれないのなら、僕は乗る」と言いました。これを聞いたときに、「何年周期にずれるのであれば、みんなは乗ると判断するか」という質問をしました。

 そこで、過去の地震後にできた断層の跡を調べていくと、大体700年周期で起こっていることが分かりました。つまり1930年に起こったので、その後700年ぐらいは動かないだろうという科学的データがあることを示しました。そして再び、生徒に利用するかしないかを聞きました。すると、「利用する」が27名、「利用しない」が2名でした。なぜ利用しないのかと聞くと、ある女子生徒は「それでも何が起こるか分からないから私は乗らない」と言いました。

 僕は、それは根拠があるからいいと思うのです。自分はこういう理由で使う、使わないと決めるのは、自分事なのです。そのような根拠を持って、リスクとベネフィットを相互に絡めて意思決定することが大事だと思って、こういう実践をしました。答えはどちらでも構わないと思うのです。科学的な根拠を持っているかどうかです。例えば誰かが言っていたから、マスコミが言っていたからではなく、自分で判断する力をつけさせたいと思って、こういう授業をしました。

 丹那トンネルを掘った当時の様子は、吉村昭さんの小説『闇を裂く道』に詳しく書かれています。僕は、涙しながら読みました。当時、ものすごく苦労しながらトンネルを開通させたことが伝わってきました。

 成果としては、何事にもリスクとベネフィットがあり、それらを総合的に考え、合意形成を図りながら、未来の社会を創造していくことが必要であると認識させることができたと思います。それから、断層と新幹線の利用という点から思考を深め、科学的に論じることができる素地を育めたと思っています。

 課題としては、北海道には函館までしか新幹線が通っておらず、札幌まではあと12〜13年かかります。ですから、生徒は新幹線のベネフィットがなかなか理解できません。トンネルを使う利便性は分かるのですが、今の子どもたちは便利な社会に生きていてベネフィットが当たり前なので、苦労する経験も必要かなと思っています。それから、リスクリテラシーについては、3年間の中でふさわしい学習を適宜考えて位置付けていく必要があると思います。

 この発表を3月にエネルギー教育賞の発表会で発表したら、神奈川県のモデル校の先生がやってみたいと言われて、全資料を渡しました。11月2日に神奈川県の中学理科の研究会で授業が行われたので、私も見に行ったのですが、神奈川県の先生方からこの授業を評価してもらい、大変ありがたく思っています。

3.高レベル放射性廃棄物の地層処分のモデル実験

 二つ目の実践は、高レベル放射性廃棄物の地層処分のモデル実験です。これは大人でも難しい内容です。そもそもよく分からずに、感情だけで考えていると思います。中3でも難しいと当初から思っていたのですが、どうすれば科学的な授業ができるかということで、教材開発を行いました。

 まずは、放射線の学習をしなければなりません。中学3年の理科では放射線について触れるとされているので、放射線はどこにでもあるということを知るために、校舎内で放射線を測定しました。それから、放射線源を真ん中に置いて、測定機を5cmごとに離して線量の変化を調べました。よく行われる実験だと思いますが、大事な実験だと思います。すると、線源から5cmずつ距離を取っていくと減衰することが分かり、離れれば離れるほど放射線の大きさは小さくなることを確認しました。

 その後、地層処分のモデル実験を行いました。イメージとしては距離の実験と似ているのですが、測定機を下向きにして、放射線源をだんだん下にし、300mより深いところに廃棄物を置きます。そして、測定機と線源のその間に岩石を置いて、地層があるというイメージをしながら、線量を測定しました。その結果、岩石の距離が開くと線量が小さくなることが分かりました。これを距離の実験と合わせると、距離の実験よりもさらに減っていることが分かり、これが遮へい効果であることが認識できました。つまり、地上に届くには300m以上もありますから、バックグラウンドの中に吸収されていって、地上には届かないことを明らかにする授業です。

 成果としては、間に岩石を入れて上下で調べるととてもイメージしやすくなり、中学生の段階でも十分理解できると考えています。問題点は、地下水の動向です。数万年かかってウラン鉱石と同じ線量率になるので、数万年間いかに安全に確保できるか、地下水の浸食を防ぐかの方が実は大事だということを理解することができました。

 課題としては、以前あった文科省の「はかるくん」貸出事業がなくなり、簡単に実験できなくなったことです。私は堀場製作所から40台お借りして、実験を毎回行っています。そして、放射線源としては、日本アイソトープ協会から借用したバリウム133という大変安定したものがあるので、これを使って実験を進めていますが、みんなが行うのはなかなか難しいと思います。

 それから、地層処分というだけで、社会問題としては扱いが難しく、教師も勉強していかなければなりません。感情が入ってくるとなかなか対応できなくなるので、科学的に捉えていくことを教師も勉強しなければならないと感じながら進めています。

4.未来の電源構成を考える

 三つ目の実践は、中3理科の単元「エネルギー資源とその利用」の最後の段階です。放射線教育がエネルギー・環境教育だとは思っていません。放射線は、原子力発電所の是非を考えるツールです。放射線について科学的に捉えた上で、電源構成をどうするかというところまで考えなければならないと思っています。そこで、未来の電源構成をどうするかを考える内容の授業をしました。

 あるモデル校の中学2年の社会科で行われた基幹電源を考える授業では、「再生可能エネルギー50%」とする生徒がいました。これを見て、多くの人は「無理だろう」と思うかもしれませんが、子どもたちをそのように導いてしまうのはよくないのではないかと思うのです。そこで私が最近考えているのは、根拠を明確にすることです。発電の長所と短所、コスト、二酸化炭素排出量、そして電力会社の発電設備容量の4点の根拠を考える教材を開発しました。

 それが2030年の北海道の電源構成を考えようという授業です。大事なのは、日本のエネルギー自給率が6%しかないという事実です。9割以上を外国に依存している状況を理解しなければならないと思います。子どもたちは6%である事実を全く分かっていません。さらに、食料自給率がカロリーベースで現在38%である事実も、子どもたちはあまり知りません。食料は6割外国に依存していましたが、実はエネルギーはもっと依存しており、かなり危機的な状況であることを認識することが大前提だと思います。

 それから、電力需要に対応した電源構成について考えます。24時間の中で電気をどのように使っているのかを見ると、やはり昼間に一番使います。さらには、電力を賄うためにはベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源の三つを使い分けていることを理解させます。そして、それぞれの発電方法の長所と短所を明らかにしていきます。

 あとは、北海道の現状です。震災前後で電力量が明らかに変わったのは原子力です。北海道電力管内では、泊原発が200万kWの電気を作ることができます。北海道の人口は約500万人ですが、500万人分の電気を賄うためには500万kWの電力が必要です。ですから、札幌市190万人の電力は原子力で賄っていると以前は言っていましたが、原子力は現在止まっていて、石油火力が増えているのです。それから、北海道には天然ガス火力がありません。発電所を造っている最中です。

 実際には停電もなく何とか電気を賄えていますから、別に原子力がなくてもいいという人もいますが、お金がかかっています。それまで原子力で賄っていた分を、ピーク電源の石油で賄っているのです。つまり、北海道電力は1日当たり5.6億円、外国にお金を払って石油を買っているのです。1年間では2000億円かかっています。ですから、北海道電力は電気料金が2回値上がりしました。原子力の割合が多かったことと、天然ガスがないことが一番の理由です。

 北海道の電力使用量のピークは冬です。しかも、朝と深夜に落ちません。電気を一日中使っている実態があります。これをちゃんと押さえた上で、2030年どうするかという話になっていきます。

 発電方法の長所・短所、二酸化炭素排出量、コストなどは何を基にしたかというと、資源エネルギー庁が発行した「私たちの暮らしとエネルギー」という大変素晴らしい冊子です。社会科、理科、技術・家庭科の内容が載っています。教科書のデータには古いものが結構あるので、比較的新しくて使えるデータを基にして明らかにしていきました。

 さらに、ベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源と、固定買取価格制度の太陽光、風力に分けて、長所・短所、コスト、二酸化炭素排出量を整理し、生徒がこれを根拠にして自分で構成を考えます。

 考える際に、昼夜でピークがあるので、北海道の400万kWの電力を長方形に見立てて、どのようにするかを考えました。ピーク電源は一応、100万kWを賄わなければならないことにして、なるべく生徒が分かりやすく思考できるような工夫をしました。

 それから、北海道電力の発電設備容量も一応確認してあります。2030年ですから、泊原発が動いているとすると200万kW使えるし、石狩に建設中の天然ガス火力発電所も完成しているので、最大171万kW使えると考えていき、計970万kWの電源が作れる設備があることを確認しました。そのうち400万kWを、自分が北海道電力の中央電力供給所の職員になって決められるとしたら、どう考えるかというのを、まず自己決定させました。

 自分の考えを公開授業の前時までに示して、それぞれの根拠を明確にしました。自分が書いた表を見ながら、ベースロード電源を、こういう理由でこうするのだということを示させました。

 その後、マーケティングディスカッション(MD)、県によっては屋台村方式といわれる方法で発表者と情報収集者に分かれ、星印の付箋を貼って評価しながら話し合いました。そのとき、各国では3E+Sの考えを大事にしていることを紹介し、講評する際にはこの視点に基づいて講評するといいという話もしました。

 それが終わった後、2030年の日本全体の電源構成の政府案を示しました。2013年に比べて2030年は経済成長しているから、電力使用量も増えるだろうけれども、技術革新も起こるので、省エネによってトータルではあまり変わらないとして、生徒が考えた内訳と政府が考えた内訳を比較してみました。

 ここで注意したのは、政府案が正しいのではなく、一つの案であるということです。政府はこう考えたけれども、共通点と相違点は何かを考えてごらんと投げかけました。政府案もエネルギー基本計画によって3年に1度見直されているという話をしました。最後に、北海道電力の方に来ていただいて、ゲストティーチャーとして子どもたちの活動を評価していただきました。

 成果としては、北海道の発電容量、発電コスト、二酸化炭素排出量、電源の長所・短所を明確にすることで、無理な案が出なくなりました。根拠に基づいた生徒の案が出て大変よかったと思います。電力と電力量の違いについても、理解できたと思います。そして、北海道の電力について考えたので、自分事として考えられたと思います。

 課題としては、常に最新のデータを示さなければならないことがなかなか難しいのですが、冊子も年々古くなっていくので、最新のデータが必要だと思います。それから、教科の枠を超えて、持続可能な社会の実現に向かうカリキュラム構築が必要です。教師自身がしっかり学んでいくことも課題だと思います。

5.まとめ

 モデル校として3年間、教育を進めてきましたが、自分自身の教材観が深まっていきました。エネルギーを軸とする教育が多様な価値観を生み出し、教科の枠を超えたカリキュラムの構築につながっていきます。まさにエネルギー・環境教育は、これからの教育に必要であると実感しているところです。これによって子どもたちは生きる力を育み、豊かな人格形成が育まれると思います。

 

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