エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時:

平成27年11月19日(木) 14:00 〜 17:00

場  所: 福井商工会議所ビル 地下 国際ホール
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 日本科学技術振興財団
後  援: 福井県教育委員会
福井市教育委員会
■ 総合講評
 

京都教育大学 教授 山下 宏文 氏

プロフィール

1982年 東京学芸大学大学院教育学研究科修了。
東京都の公立小学校教諭、京都教育大学教育学部助教授、等を経て2002年より現職。
専門分野は環境教育、社会科教育。日本エネルギー環境教育学会顧問、日本教材学会常任理事、他。2003年より福井県環境・エネルギー懇話会の専門委員会である環境・エネルギー教育問題懇談会の座長。

(要旨)

 福井県環境エネルギー懇話会内の環境エネルギー教育問題懇談会で座長を務めている京都教育大学の山下です。まず、このセミナーが第16回を迎え、非常に充実した内容となったことに対し、参加の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。

 基調講演で安彦先生より、お話を頂きました。安彦先生は現行教育課程、次期教育課程にまさに中心的に関わっておられる先生ですから、そのような先生から直接お話を伺う機会を得られたことは大変よかったと思っています。

 安彦先生からは、ESDと今の教育が求めようとしている学力には非常に親近性があることをご指摘いただきました。福井県は全国トップレベルの学力を持っている県ですが、今のままでいいと思っていると、教育の求めるものがさらに高度になっていくのに遅れてしまうこともあり得ないわけではありません。ESDにきちんと取り組んでいくことによって、これから求めてく学力を育てていくことができるのではないでしょうか。安彦先生からは、ESDの中心は地球環境問題であることもご指摘いただきました。今日、先生からお話しいただいたことは、エネルギー環境教育を捉えていく上での基本でもあると思っています。

 その後、二つの実践事例発表をしていただきました。今日の講評として私が強調したいのは、エネルギー環境教育は教育的課題にとって極めて重要だという自覚が必要だということです。エネルギー環境教育は、二つのことへの対応が求められています。一つは社会的課題への対応です。その上位にあるのは、持続可能な社会の実現です。その実現の上で、エネルギーの問題は中核といってもいい問題だろうと思います。

 エネルギーの問題として、私たちが対応していかなければならないことは、大きく三つあると思います。一つは、エネルギー資源、化石資源は限りがあるということです。最近ではシェールオイルやシェールガスが実用化されて、可採年数も増えてきましたが、使い続けていけば、いつかはなくなります。しかも、化石資源は偏在していることも考えなければなりません。以前はそれを使う量も国も限られていましたが、今は全世界の国がこのエネルギー資源を必要とし、獲得競争をする状態になっています。二つ目に、日本はエネルギー自給率が6%という非常に低い中で、これからもエネルギーを確保していかなければなりません。三つ目に、地球温暖化への対応です。日本の場合、温室効果ガス排出量のうち95%が二酸化炭素で、そのうちの9割がエネルギー起源です。

 社会的課題への対応についてはこれまでも随分いわれてきていますが、それに比べて少し弱かったのは、教育的課題への対応としてエネルギー環境教育があることです。

 安彦先生のお話にもあったように、これからの能力は、現実の生活や社会に対応できる力でなければならないと思います。これについて、ジャレド・ダイアモンド氏が非常に示唆のある話をしています。彼は、過去に崩壊した社会を分析して、その崩壊の原因は環境破壊と人口爆発であり、今は地球規模の文明崩壊の危機なのだと言っています。

 また、福島の事故後のインタビューでは、「社会を存続させる秘訣は、結婚生活を続ける秘訣と同じである」と言っています。「現実的であれ」ということです。「現実的であれ」というのは、安彦先生が「現実主義を克服しなければならない。社会に追従するのではなく、社会の在り方を問わなければならない」と言われたこととは反しません。ここで言っている「現実的であれ」とは、現実に追従することではなく、現実の姿をしっかり捉えて、それに対してきちんと対応していかなければならないという意味です。夫婦間がうまくいくためには合意や妥協が必要です。水や森林、治安、人口、外交など次々と生じる問題から目をそらし、対策を怠れば、そこから社会は崩壊してしまいます。現実の社会をきちんと捉えて、そこから現実の社会をどうしていくのかという見方をしていかなければならないということだと思います。

 教育は、どちらかというと、一つの理想の社会や世界を想定して、その中ではこうでなければならないという捉え方になりがちだったのではないでしょうか。現実には妥協しなければならないこともあるし、合意しなければならないこともあります。その中で、現実の社会に対応できる能力が育ちます。であるならば、このエネルギー環境教育がこれから求められる資質や能力を育てていく上で、非常に大きな役割を果たせるという見方が必要ではないかと思います。

 私は昨年まで4年間、京都教育大の附属高校長を兼務していたので、高校の様子はよく分かります。国立大の附属高校といえども、生徒をいかに獲得するかに必死で、教育目標の中に難関大学への進学実績を向上させることを入れたらどうかという議論がありました。私はそれに対して、絶対におかしいと言いました。私のいた附属高校で、保護者に対する説明会などで私が本校の特色として言っていたのは、「本校は単に大学進学だけを見ていない。大学に行ってからこの子たちが伸びていくか、さらに大学を出た後、社会の中で活躍できるかというところまで見ている」ということでした。SSH(Super Science Highschool)にも指定されましたが、その評価も単に理系に何人行ったかということではなく、大学を出た後どうしているかというところまで追跡調査して評価しています。

 ESDによって求めようとしている能力は、単に大学に受かればいいというものではなく、社会で通用するものです。しかし、私が関わっているエネルギー環境教育をしている学校などに行くと、いつも学力調査の成績が上がったか聞かれます。私はそれに対して、エネルギー環境教育を進めていけば、それに伴って必ず子どもたちの学力も高まっていくはずで、そのように取り組んでいく必要があると話しています。最近、実際に成績が上がってきているところが多いです。

 欧米の学校などのエネルギー環境教育の様子を見ていくと、比較的熱心に行っている国では、小学校のときから、これからのエネルギー選択はどうすべきか、原子力はやめるべきではないか、必要ではないかなどという議論をさせています。小学生は小学生なりに議論しますし、中学校に行っても、高校に行っても、繰り返し議論を行っています。あるとき、日本の高校生が向こうの高校生と原子力発電について議論することになったのですが、日本の子どもたちは何も言えなかったそうです。そのような議論の場の積み重ねのようなものがないということだと思います。

 大学の立場から言えば、大学入試自体がこれから大きく変わっていきます。徐々に知識だけでは対応できないような入試になっていくとすると、ESDやエネルギー環境教育などが、大学進学そのものにも直接関わってくるという見方もしていかなければならないと思います。

 福井県でも、変わりつつある教育への対応という観点から、ぜひエネルギー環境教育をそれぞれの学校や先生方の取り組みとして進めていただければと思います。今日は、非常に内容があり、私自身も学ぶものが多いセミナーにすることができたと思います。次年度以降も続けていくと思いますので、ぜひまたご参加をお願いします。

 

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