エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時:

平成26年11月20日(木) 14:00 〜 17:00

場  所: 福井商工会議所ビル 地下 コンベンションホール
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 日本科学技術振興財団
後  援: 福井県教育委員会
福井市教育委員会
■パネルディスカッション

テーマ

これからのエネルギー・環境教育について考える

パネラー

長岡京市立長岡第四小学校 教務主任 松尾 史 氏

神戸大学附属中等教育明石校舎 教諭 坂口 喜啓 氏
越前市武生第一中学校 教諭 竹澤 秀之 氏
21世紀政策研究 研究主幹 澤 昭裕 氏

コーディネーター

京都教育大学 教授 山下 宏文 氏

(要旨)

(山下) このパネルディスカッションでは、これまでの講演や事例発表を通して、これからのエネルギー環境教育はどうあるべきかを探っていければと思っています。

 まず、福井県でエネルギー教育のモデル校に指定された武生第一中学校では、どのようなエネルギー環境教育を考えているのかをお聞きしたいと思います。竹澤先生、紹介をお願いします。

(竹澤) 本校は、福井県で唯一、経産省が進めているエネルギー教育モデル校に選ばれました。具体的には、1年生でエネルギーの安定供給の確保と省エネルギーへの取り組み、2年生で地球温暖化問題と省エネルギーへの取り組み、3年生で多様なエネルギー源とその選択を学習し、これらを通して、最終的に持続可能な社会の構築を目指す生徒の育成を考えています。

 研究組織については、校長、教頭、理科教員、社会科教員、技術家庭科教員の15名からなるエネルギー教育推進委員会を立ち上げました。

 研究の大きな柱として、総合的な学習で3年間行い、その他にも、各教科のエネルギーに関する内容のところでできることを頑張っていこうと考えています。また、今までのエネルギー教育「実践校」ではなく、エネルギー教育「モデル校」なので、もう一つの研究の柱として、他の学校のモデルになるような取り組みがしたいと考えています。

 モデル校になるためには、本校の研究が他の学校に波及していくことも狙いにしなければなりません。教えたい内容、生徒に伝えたい内容を厳選し、各学年2時間、計6時間の総合的な学習の時間で入れ込んでいこうと考えています。2時間ずつであれば、各学校がエネルギー教育に取り組みやすくなるのではないかと考えています。

 2日前に、1年生で、エネルギーの安定供給の確保ということで実践を行いました。日本はエネルギー資源の乏しい国だということをスライドで伝えた後、こういう状況であなたたちであればどうしますかという内容です。生徒の感想および考え方を見ると、100%近くが節約しなくてはいけないという感想を持っています。外国と仲良くするとエネルギー問題は解消されていくのではないかと考えている生徒が約60%、何とかしてエネルギー自給率を上げていかなくてはならないと考えている生徒は約10〜20%です。まだ始まったばかりなので、授業を進めていく中でそういうことが考えられるようになっていけばいいと思っています。

 この研究は、福井大学の福井理科教育研究会(FSC)、コア・サイエンス・ティーチャー事業の協力を仰ぎながら進めています。研究が深まれば、来年度また報告できるかと思っています。

(山下) エネルギー教育モデル校は、今回、小学校と中学校と半々ぐらい指定できたのですが、全体的な傾向から言うと、中学校の実践が非常に少ないのです。そういう意味で武生第一中学校には非常に期待していますが、モデル校の指定を受けるに当たって、学校全体として何か課題はなかったのでしょうか。

(竹澤) その辺の悩みはほとんどありませんでした。管理職が「いいのではないか」と言って終わりです。

(山下) 中学校は教科担任制になっているので、学校全体で取り組むには課題があるのですが、ある意味で素晴らしいと思います。
ここで澤先生から、各校の取り組みを聞いての感想と、エネルギー基本計画の中での教育の捉え方についてお聞きしたいと思います。

(澤) エネルギー基本計画には、エネルギー教育をしていかなくてはいけないということが明確に書かれています。もう少し大きなコンテクストで言うと、リスクコミュニケーションを含めた政策全体を国民の方々にどう理解していただくかというこれまでのアプローチを反省し、今後、世代が変わる中で、できるだけ早い時期からエネルギー問題の難しさや理解するためのパースペクティブを植え付けておくことを狙って教育をしていくべきだと書いてあります。

 今日の発表を聞かせていただいて、皆さん、非常に工夫されていて、個性的だったと思います。われわれ詰め込み型の教育を受けてきた世代からすると、今の先生は大変だというのが第一印象ですが、エネルギー環境教育の根源的な難しさは、実はそこにあります。

 エネルギー学とか環境学については、まだきちんとした学問体系があるわけではなく、よちよち歩きの部分が多いので、問題の分析や解決の方法論にバラエティがあり、いろいろな学問からアプローチされていきます。メーンストリームの学問の端の部分がエネルギーや環境で、教育方法も体系立っていません。そういう中でエネルギー環境教育をやれと言われても、現場で工夫していただくしかないのですが、今日発表していただいた取り組みはそれぞれが個性的で、工夫されていて、印象深いものでした。

 それが故に、リードしていく先生方の目標やアプローチの仕方が明確でないと、発散してしまいます。正解がなく、みんな良かった、立派だったで終わってしまうので、いまひとつ深い理解に届かないケースもあろうかと思います。

 今日聞いていて思ったのは、合成の誤謬というのでしょうか、全員が正しいことをやっているつもりが、全部合わせてみると社会にとってあまり良くなかったということもあるので、みんながいいことをやりましょうで終わってしまわないで、そこから先、社会全体として何が起こるのかまで考えさせる工夫があると非常にいいと思いました。

 もう一つは、トレードオフの問題がつきまとうわけですが、エネルギー問題を社会の価値選択として捉えて、例えば電力危機になったらどこから電力を配っていくかというときに、病院に先に配るのか、学校か、役所かといった選択肢を入れて考えさせると、きれい事で終わらないで、現実を見た形で入り口まで入れるのではないかという気がしました。

(山下) 澤先生から、エネルギー環境教育を進めていくに当たっては、教師が目標やアプローチをしっかりさせておくことが大事ではないか、マクロの視点やトレードオフの視点が鍵になるのではないかというご指摘を頂きました。

 私は、エネルギー環境教育は、当然、持続可能な社会の実現を前提にはするのですが、最終的には、われわれがどうエネルギーを選択していくのか、将来きちんと選択できるような国民を育てることがゴールだと思っています。それについて何かご意見はありますか。

(澤) 今おっしゃったことが、まさにエネルギー基本計画でも最終ゴールとして目指しているところです。誰かに与えられた情報をうのみにするのではなくて、自分の価値観に基づいて選択していける力を付けることが、確かに最終目標だと思います。

(山下) エネルギー環境教育のゴールを確認したところで、今度は実践事例を発表していただいた先生にお聞きしていきます。

 まず、松尾先生。長岡第四小学校のエネルギー環境教育の取り組みは、非常に長く続けられています。教育もカルチャーも変わっていく中で長年続けてこられた理由、あるいはその方策があれば教えていただきたいのですが、いかがでしょう。

(松尾) 平成20年度にエネルギー環境教育が入ってきたのですが、当初は半数以上の教師から、今さら何で新しいものを取り入れなければいけないのかという反発がありました。当時の校長と教務主任が、エネルギー環境教育でやっていきましょうという強いリーダーシップを取ってくれたおかげだと思っています。よくよく考えてみると、エネルギーはわれわれの生活の中で身近な問題です。将来的に子どもたちが有権者になったときに、自分がどういう考えを持って、どういう判断をして、どういう行動を取るのかというところを目指していくというのが、学校のスタンスになってきています。

 大事な方策は三つあると思います。まず一つは、カリキュラムです。しっかりしたカリキュラムがあってこそ学習が進みます。もちろんそれには、周りの教師の理解が大切です。

 二つ目は、子どもたちの活動です。エネルギー環境教育を勉強していくだけではなく、下の学年に伝えていくことが大切です。そうすると、下の学年の子どもたちの意識が高まって、来年はこういうことを学習するのかという見通しも持てます。

 三つ目は、学校現場でどういう人事をされるかだと思います。教師がどんどん代わっていく中で、エネルギーに通じた、これまでの蓄積を持っている先生を入れることによって、つなげていくことが必要だと思います。

(山下) エネルギー環境教育の実践は、取り組んでいくと教師自身も楽しい、だから続くのだと聞いているのですが、そのあたりはいかがでしょう。

(松尾) 私も、この学校に来て初めてエネルギーの学習を進める立場に立ったのですが、やっていくうちに本当に楽しくなりました。教師が楽しめば、子どもたちも楽しくなってきます。私も、エネルギー関係の新聞記事を切り取ってはノートに貼っていって、それを他の学年の先生の机の上にも置いておくというようなことを、無意識のうちに始めていました。

(山下) エネルギーの問題は、政治的なこともあるし、難しい内容もありますが、学習として楽しい活動をいかに導き出していくのかが重要なところだと思います。

 次に、坂口先生にお聞きします。先ほどの発表の中でも、子どもたちの学力を高めていく観点からエネルギー環境教育に取り組んでいるように読み取ったのですが、エネルギー環境教育と学力の関係をどのように捉えておられるのでしょうか。

(坂口) 発表することによって自分自身の意識も変わり、それを聞いてくれている人も変わります。それを後輩が見ていると、つながっていくことにもなります。学校現場で重要視されている言語活動にもつながっていくかと思います。

 最近、ある国がエネルギー環境教育で事実をどんどん教えたら、若者の自殺が増えたという話を聞いたのですが、大事なのはその使い方だと思います。事実プラス、ポジティブな答えのヒントのようなものを伝えていくことが大事だと感じています。

(山下) エネルギー環境教育は、難しい問題を解決して、未来の社会をつくっていける子どもたちを育てていくものです。明るい展望を子どもたちに持たせることも大事なのではないでしょうか。

 竹澤先生は、エネルギー環境教育と学力の形成という点をどのようにお考えですか。

(竹澤) エネルギーそのものをどうするかと考えることが学力形成になると思っていますが、その前に、どういう問題があるかを教えないとスタートしません。そのために、教師自身が勉強しておかないといけないと思います。

(山下) 社会人として送り出していく、人材を育成していく上での学力という考え方が大事かと思いますが、澤先生、学校での学力とエネルギーの問題で、何かお考えはありますか。

(澤) 学生とエネルギー環境問題についてインタラクティブに話をしましたが、エネルギー問題を多面的に捉える視野が少ないというか、頭が既に固まっている人が多いという印象を持ちました。

 例えば、ペットボトルのリサイクルをどう考えるか。物を捨てることは許されないという考え方をする人はリサイクルにこだわりますが、温暖化を問題視している人は、わざわざエネルギーをかけてペットに戻すのはばかげたことだと考えます。私が言いたいのは、どちらかに固まらないでほしいということです。両方の言い分が分かった上でこちらを選択するというのは構わないのですが、「私はこれしかありません」という人を育てないでほしいと思います。

 学校現場で難しいのは、全員が論理の世界にいるわけではなく、感性でものを捉える人もいることです。そういう人も含めて、楽しい、あるいは勉強になるという授業を仕立てていくことは、すごく難しいと思います。ある種のイメージにはめていくのも間違いですし、勝手に散らばっていくことを奨励するのも駄目でしょうから、どうしたらいいのか。むしろ現場の先生方にお聞きしたいと思いました。

(山下) 感性も大事なのですが、感性だけでいろいろな問題が解決できるわけではないので、やはり科学的な見方、理論的な考え方を教育で育てていかなければなりません。今、澤先生から、多面的な見方ができる人材が非常に重要だというお話を頂きましたが、エネルギー環境教育は、まさにそこに迫っていける教育ではないかと思います。

 最後に、エネルギー環境教育を進めていく上での課題は何か、その課題はどうしたら解決できるのかをお聞きしていきたいと思います。松尾先生からお願いできますか。

(松尾) 教師が代わっていく中で、どのように子どもたちに教えていくか。教師自身が新しい情報を察知し、それを小学生に分かるように砕いて教えていく、引っ張っていくというところが大きな課題かと思います。

(坂口) いかに生徒の側に立った教育ができるかを柔軟に考えていくことが大事だと思います。学校の文化や歴史、子どもや親の要求はそれぞれ違いますので、自分の学校ではどうしていけばいいのかという答えを探してくことも必要です。態度を形成していくには経験が大きな意味合いを持つと思うので、それにつなげるような準備や、いろいろなことが分かって経験することと、経験してみて教科の必要性を感じ取らせることに取り組んでいけたらと思います。

(山下) 先生の学校も、エネルギー環境教育に長く取り組んでおられますが、続けてこられた理由は何かありますか。

(坂口) 附属校なので、研究に対しての受け止め、下地があったことも有効だったと思います。年間の指導計画の書式を統一すると、他の教科でやっていることが見えてきて、一緒に取り組めます。何気ないことですが、そういうことも大事だと思います。

(山下) 竹澤先生のところは、今年から取り組み始めたので、まだ具体的な課題は見えていないかもしれませんが、いかがでしょうか。

(竹澤) エネルギーに関する知識不足が課題です。子どもに下ろすときには、教師全員知っていなくてはいけません。ですから、教員研修のような形で、まずはエネルギーについて理解を深めることが大事ではないかと思います。

 知識がないのであれば、専門家を呼べばいいという話もありますが、まずは自分の学校の中で回せる方法を考えないと、持続しないのではないかと思います。総合的な学習を各学年2時間に設定したのも、持続可能ということが念頭にあるからです。

(山下) 教師の中には、エネルギーに関する知識が足りなくても困らないという人もいるかもしれません。なぜエネルギーの知識が必要なのかという目的意識を持つと、もっと学ばなくてはとなるでしょうから、エネルギーに取り組むことの意義をまずしっかりしておくことも大事ではないかと思いました。

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