エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時: 平成24年11月20日(火) 14:00 〜 17:00
場  所: 福井商工会議所ビル 地下コンベンションホール他
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
後  援: 福井県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 原子力安全研究協会
ワークショップ(実践事例発表と意見交換)

テーマ:

「 『中学校理科におけるエネルギー教育の指導資料〜放射線を正しく指導するために〜』を活用した授業の実践 」
発 表:

川西中学校(福井市) 教諭 冨島 修司 氏

(要旨) 

1.主題設定の理由

 私が昨年、福井県教育研究所で勤務していた中で、放射線の指導をテーマに研究したことを中心にお話しします。

 学習指導要領の改訂に伴い、中学校学習指導要領の理科第一分野において、放射線が扱われることになりました。放射線の指導は約30年ぶりの復活だということで、昨年は、放射線に関する研修会や研究会が数多く開かれました。加えて、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射線に対する不安や関心が非常に高まりました。震災直後、福島からの転校生に対するいじめの事例が報告されたことからも分かるように、放射線に関する正しい知識を生徒に身に付けさせることが課題となりました。

 これらのことから、現場の方でとまどいや不満の声が聞かれ、放射線の指導の在り方を探ることが課題となりました。

2.研究の内容と考察

2-1.アンケート調査の実施と分析

 まず、昨年11月にアンケート調査を行いました。県内の中学校理科教員から抽出して依頼をし、78校中35校、76名の教員より回答を得ました。73%の教員が「放射線の指導に不安がある」または「少し不安がある」と回答し、その理由として最も多かったのは「初めて指導する内容だから」「放射線をよく理解していないから」です。

 放射線に関する研修会に参加したことがある教員は56%でした。参加したことがない教員の約8割が「放射線の指導に不安がある」または「少し不安がある」と答えています。これらのアンケート結果より、放射線の指導に当たっては、まず教員自身が放射線を正しく理解することが大切であると考えられます。

2-2.「中学校理科におけるエネルギー教育の指導資料」について

 このような状況の中、福井県教育委員会は平成23年10月17日、「中学校理科におけるエネルギー教育の指導資料〜放射線を正しく指導するために〜」を作成し、県内すべての中学校理科教員および全小学校に配布しています。

 放射線の指導に当たっては、@放射線の性質や利用・影響などについて正しく理解させること、A生徒にしっかりと考えさせること、B福井県のエネルギー事情について、現状を正しく理解させることの3点に留意するように記載されています。

 福井県教育委員会が放射線の指導の方向性を明確に示したことは、私たち教員にはとても大きなことでした。この資料を県が配布した後、中学校教員にアンケート調査を行ったところ、90%の教員が「参考になる」または「まあまあ参考になる」と回答しています。なお、この後私が実践した授業も、この資料の中に提示されている「授業の展開例」を参考にしています。

2-3.指導計画

 授業を行うに当たり、プレゼンテーション資料を作成しました。県の資料は各教員に1部しか配布されていなかったため、アンケートでは「授業で活用しにくい」という声もありましたが、プレゼンテーション資料を活用することで、効率良く指導することができるようになりました。スライドにはクイズ等も入れ、生徒に考えさせながら授業を進めることができるようにしました。

 放射線に関しては、教科書では半ページほど、約1時間の扱いになっていますが、県は、3時間しっかり授業を行いましょうという方向性を示しました。その3時間の主な指導内容は、第1時が霧箱を用いて放射線を見る(目で見てイメージをつかむ)、第2時が放射線測定器を用いて測定する(放射線を科学的に数値でとらえる)、第3時が放射線について話し合い、放射線に対する自分の考えを持つという流れです。語句や知識の伝達のみで学習が進まないように、できるだけ実験や実習を多く取り入れた授業づくりを心掛けました。

2-4.授業の実践を通しての考察

 第1時の導入では、「放射線」という言葉から連想することを九つのマスが書かれたワークシート1に記入し、放射線のイメージを班で話し合いました。このワークシートは第3時にも使用し、第1時と第3時でどのような変容があったかを確認しました。次に、「放射能」「放射線」といった基礎的な用語について、プレゼンテーション資料を使って説明しました。その後、霧箱で放射線の飛跡の観察を行いました。この観察は、放射線が身近にあることを実感する上で、非常に効果的でした。第1時を終えて、生徒からは「放射線と放射能などの違いが分かった」「放射線の飛跡を見ることができて感動した」といった感想が出ていました。

 第2時では、放射線測定器を用いて放射線量の測定を行い、ワークシートに記入しました。理科室内でマントルとカリ肥料の測定をし、花崗岩でできた校門、あるいは花壇での測定を行いました。測定器で測ることでμSv/hといった単位に着目し、放射線は数値で表せることを実感していました。第2時を終えて、生徒からは「大地からも放射線が出ていることが分かった」「マントルを測ったとき、測定器の音が鳴ったのでとてもびっくりした」といった感想がありました。

 第3時では、主に話し合い活動を行いました。第1時と同じように、放射線から連想する言葉をワークシートに記入し、その言葉がプラス面なら青、マイナス面なら赤、どちらとも言えない場合は黄色の付箋紙に書き写し、それを「分析ギョッ!」と名付けた大きなワークシートに貼り付けて、グルーピングしていきました。その際は、放射線副読本も用意して、学習したこと以外も調べることができるようにしました。

 この活動では、「原子力発電所」という同じ言葉を連想していても、青い付箋紙に記入した生徒と赤い付箋紙に記入した生徒がいました。原子力発電所をプラス面またはマイナス面と考えた理由を話し合わせることで、より考えを深めることができました。最後に、同じグループごとに囲み、それぞれにタイトルを付けました。

 ある班は、「3.11」「人体影響」というマイナス面のグループと、「生活での利用」「医療関係」というプラス面のグループに分けました。図にまとめることで、「細胞のDNAを壊す」という性質は、マイナス面の「細胞を破壊してがんになる」とプラス面の「がん細胞を破壊する」のどちらにも関連していることに気付くことができていました。

 「分析ギョッ!」を用いた話し合い活動は、連想した言葉を使っているためスムーズに活動に入ることができました。図にまとめることは放射線の性質がプラスとマイナスの両面にかかわっていることを理解する上で有効でした。プラス面あるいはマイナス面と考えた理由を話し合うことで、他人の意見と自分の意見を比較したり統合したりすることができ、放射線を科学的に考え判断できる力を養うことに有効であったと考えられます。

2-5.アンケートによる生徒の変容の検証

 第1時と第3時にワークシートに記入された言葉や文章を集計したところ、第1時には「熱い」「強い」「形がない」「すごいやばい」といった抽象的なイメージが多かったのですが、第3時では、学習した科学的な用語や文章で表現したものが数多く見られるようになりました。出てきた言葉の個数が2倍以上になり、無答の生徒もいませんでした。

3時間の授業の前後のアンケートを分析すると、授業前は17人が「身の回りに放射線はある」と答えたのに対して、授業後は27人全員が「ある」と回答し、身近に自然放射線が存在することを理解できていました。授業前は19人が「放射線は人にうつらない」と答えたのに対して、授業後は24人が「うつらない」と回答し、人から人へ感染しないことを理解できた生徒が増えています。放射線と放射能の違いが分かる生徒は、授業前が2名、授業後は22人でした。

3時間の授業後は、「放射線について知ることが大切である」という感想が多く見られ、正しい知識を持つこと、学ぶことの大切さに気付いてくれたのではないかと思います。

3.研究の成果と今後の課題

 県が作成した指導資料に基づく授業は、放射線を理解させることに非常に有効だったといえます。

 今後の課題としては、指導内容をさらに吟味し、実践を増やしていくこと、プレゼンテーション資料などを改善していくことが大事かと思います。

 今年から川西中学校で勤務しているのですが、理科室にペルチェ型の霧箱、測定器セットが7台と、放射線に関する実験器具が充実していることに驚きました。確認したところ、市が2年計画で放射線に関する実験器具を全中学校に配置するよう取り組んでいるとお聞きしました。県が放射線の指導に関する方向性をきちんと示し、市が実験器具をバックアップしているというところも、非常にありがたい環境だと感じています。

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