エネルギー・環境教育セミナー 報告書


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時: 平成24年11月20日(火) 14:00 〜 17:00
場  所: 福井商工会議所ビル 地下コンベンションホール他
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
後  援: 福井県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 原子力安全研究協会
■基調講演

演 題:

「 暮らしに役立つ放射線〜がんの診断・治療の最前線 」
講 師:

福井県立病院陽子線がん治療センター センター長
山本 和高 氏

講師プロフィール:

1982年 京都大学大学院医学研究科修了。
福井医科大学(現 福井大学医学部)助教授などを経て、1998年若狭湾エネルギー研究センター粒子線医療研究室長。
その後、福井県健康福祉部技官などを経て2011年より現職。
医学博士、日本医学放射線学会所属。

(要旨)

はじめに

 私どものように毎日放射線を大量に扱っている人間から言うと、放射線は一般の方々に誤解されているところがあると思います。正しい知識を持ち、正しい情報を得て、正しく恐れることが大切です。
 今回のような事故があっても、周りがすべて汚染されてしまうわけではありません。放射能の影響の高いところに行かなければいいのですが、SPEEDIによる放射能影響予測が公表されたのは避難が終わった後でした。知識も情報も十分ではなかったことで、恐怖が必要以上に増幅されているという印象を持っています。

1.放射線、放射能の単位

 Bq(ベクレル)は放射線の量を示す単位で、1秒間に1個の原子核が崩壊して放射線を出せば1Bqです。非常に分かりやすいのですが、例えばセシウム137は100Bqが3.1×10の-12乗gと非常に微量なので、数値としては小さすぎる感じがします。

  Gy(グレイ)は吸収線量の単位で、放射線照射により1kgの物質に1Jのエネルギーが吸収されたときの吸収線量(1J/kg)が1Gyです。これは物理線量なので測定できます。水に1Gy照射したときの温度上昇はわずか0.00024度です。よく放射線を当ててがんを「焼く」という表現をしますが、実際には温度変化は全くありません。

  Sv(シーベルト)は、生物学的影響の単位です。Gyに放射線ごとに定められた係数を掛けた、あくまでも計算で求められる数値です。

1-1.セシウム

 今回問題になっているセシウム137は、半減期が30年です。崩壊して最終的にバリウム137になり、その際に、最大エネルギー512keVのベータ線、661.7keVのガンマ線が出ます。

  1000Bqのセシウム137が体外1mの距離にある場合は、0.69μSvの被曝で済みますが、同じ量を経口摂取すると、距離的にも近くなるので13μSvになります。そういう意味では、内部被曝は怖いということです。

  ただ、一度摂取したセシウムはずっと体内にとどまるわけではなく、主に尿中に排泄されていくので、生体内での半減期は70〜100日です。継続的に摂取していなければ、そう長いものではありません。

1-2.ヨウ素131

 もう一つ問題になるヨウ素131は、半減期が8日です。従って、半年たつと100万分の1以下になります。半減期の短いものは時間がたてばほとんど影響がなくなります。

  ヨウ素131は選択的に甲状腺に取り込まれ、甲状腺がんを引き起こします。実際、チェルノブイリでは、かなり多くの子どもが甲状腺がんを発症しています。ただ、日本人は海藻を食べる習慣があり、ヨウ素がたくさん体内にある状態なので、ヨーロッパの内陸地に比べると、同じ量のヨウ素131を摂取しても甲状腺に集まる割合は随分少なくなります。

  究極的には、ヨウ化カリウムを経口摂取しておけば、それがブロックしてくれるので、ヨウ素131は甲状腺にいかないのですが、ガスまたは細かなちりという形で肺から吸い込むと、ほぼ瞬時に血液中に移行し、甲状腺に集まっていきます。ですから、前もって摂取しておかなくては間に合いません。

1-3.自然放射能

 私たちの周りには自然放射能があります。世界的には2.4mSv/年ですが、日本はラドンなどが少ないために1.4mSv/年ほどです。ただ、これも地域によって違います。関西は、カリウム40を多く含む花崗岩が多いので関東よりも地面からの被曝が増えます。また、温泉地であるイランのラムサールはラドンガスがかなり大量にあるので、平均10.2mSv、放射能を出す鉱石の産地であるブラジルのグァラパリは、平均5.5mSvです。

  宇宙線は0.39mSv/年です。成田−ニューヨークの往復で0.2mSvですから、5往復で1mSvになってしまいます。

  天然放射性核種としては、カリウム40、炭素14、ラドン222、ラドン220等があります。カリウム40は半減期が12億年もあり、いまだにアクティブです。人間の体内にも、体重60kgの人で約4000Bqのカリウム40を持っています。セシウムとカリウムは体内動態がよく似ているので、セシウムを追い出すためにカリウムをたくさん摂取するのも一つの方法ですが、たくさん摂取しすぎると腎臓に負担がかかります。炭素14は、自然界でどんどん生成されているので、体内に2500Bqほどあります。

  ラドンによる体内被曝は、日本では平均0.4mSv/年といわれています。日本は放射線に対するアレルギーのようなものがあり、数十Bq程度でも問題にされますし、震災後のごみ処理には1t当たり何百ベクトルという基準があるわけですが、同じ放射線なのにラドン温泉を問題にしないのは不思議な気がします。

2.放射線の遺伝子への作用

 遺伝子は二本鎖になっており、グアニンとシトシン、アデニンとチミジンという塩基がペアになるように決まっています。人体には細胞が約60兆個あり、1個の細胞の中に塩基が120億個あるので、トータルするととんでもない数になります。

  これに放射線が当たると、直接的に壊す直接作用と、生成されたフリーラジカル(反応性の高い物質)が遺伝子を壊す間接作用が引き起こされます。例えば喫煙など、放射能以外でも同じようなメカニズムで遺伝子が壊されます。

  遺伝子の壊れ方には、塩基損傷、一本鎖切断、二本鎖切断の3パターンがあります。いずれの場合も、正常に修復されれば問題ありませんし、細胞が死ねば発がんすることはありません。問題は間違った修復が行われた場合です。実は、普通に生活していても、1日に数千カ所、数万カ所という間違った修復が起こっています。その場合は細胞増殖しないことが多く、免疫機能により異常細胞として排除されるのですが、そういうメカニズムをすり抜けてがん化するものがあります。

  ICRP(国際放射線防護委員会)では、ALARA(As Low As Readily Achievable)の原則を提唱しています。これは、被曝は合理的にできるだけ減らそうという考え方で、平常時の公衆被曝の線量は自然放射能と医療被曝を除いて1mSv/年までとなっています。ちなみに、現在、日本人の医療被曝は2〜3mSv/年といわれており、結構多いという感じがします。

3.放射線被曝の健康への影響

 放射線の人体への影響には、確定的影響と確率的影響があります。両者の決定的な違いは、ある一定の数値以下ではその症状は出ないという閾値があるかどうかです。ただ、100mSv以下の微量放射線被曝の健康への影響は、いろいろな説があり、現時点では科学的に確立していません。

  影響の不明な部分は安全側に立ち、危険なものと見なして対応することが安全管理につながるということで、しきい値なし仮説が生きています。一方、しきい値仮説については、2004年にフランス科学アカデミーが、しきい値があると考えた方がいいという意見を出しています。放射線ホルミシス仮説といって、ごく微量の放射線は浴びた方がむしろ体に良いという意見を言っている人もいますし、遺伝子脆弱性という名前を付けているのですが、特に遺伝子レベルでは、少ない線量だと直線よりもむしろ影響が強く出るという実験結果もあります。

  従って、現時点では、低線量のところではあらゆる可能性があり、未確立、分からないという言い方が一番正しいわけです。

4.がんの検査法

 今、日本では、約3割の人ががんで亡くなっており、一生のうちにがんに罹患する確率は約50%です。一方、100mGyを浴びるとがんができる確率は0.5%程度です。理論的には、50%の確率が0.025%上がるだけなので誤差範囲に入ってしまい、実証することは困難です。

  X線写真は、照射したX線が体内のいろいろなものに吸収され、透過してきたX線を写真にしたものです。一番多いのは、恐らく胸部X線写真です。最近はデジタル化されており、昔の画像と新しく撮った画像の差を取って、新しくできたがんを見つけるという処理もできます。

  ただ、小さな肺がんは単純X線写真だけでは分からないので、CTが使われます。最近のCTは、1回に320枚の写真を撮ることができ、撮影時間も最短0.35秒です。ただ、CTの欠点は、胸部単純X線写真の50〜100倍の被曝量があることです。そのため、検診にはできるだけ低い線量で画像を作る試みがなされており、被曝線量が7分の1以下のCTも開発されています。それでも、単純X線写真に比べるとかなり多い量になります。

 乳がんも、マンモグラフィというX線を使った検査で検診が行われています。超音波やMRIのように、放射線を使わない検査もあります。MRIは、CTよりも細かいところまで分かりますが、倍以上費用がかかるという問題があります。

  それから、核医学検査といって、放射性医薬品を体内に投与して行う検査もあります。例えば、PET(Positron Emission Tomography)では、炭素11などを使います。普通の炭素は陽子6個と中性子6個で安定しているのですが、炭素11は中性子が1個少なく、崩壊に伴い陽電子を放出します。陽電子は電子とくっついて消えてしまうのですが、その際にエネルギーが511keVの放射線2本になるので、これを画像化するという方法です。

  ただし、PETはがんを直接見ているのではありません。がんはブドウ糖をたくさん使うものが多いので、ブドウ糖に似たFDGという物質を投与し、体内でブドウ糖がどのように使われているかを見ることによって、がんの検査ができるのです。ちなみに、脳はブドウ糖を一番たくさん使うので、画像では真っ赤になります。使っていないところは、あまり赤くなりません。ですから、この検査をすれば、脳のどこが働いているかがよく分かります。アルツハイマーの場合、症状が出る前から、特定の区域でブドウ糖代謝が低下していることが分かっています。この検査は、静脈注射を1回したら、あとは寝ているだけでがんが分かるのですが、値段が非常に高いという欠点があります。

  検査法にしても、治療法にしても、選ぶ場合に考えなくてはいけないことはリスクとベネフィットです。予想される不利益と利益のバランスをよく考えて、利益が多いものでないとやってはいけません。不利益には、放射線被曝も含まれます。

5.がん治療と放射線

 がんの治療法というと、普通は外科的切除ですが、放射線を使って治療することもできます。放射線治療の原則は、がんは殺して、正常組織にはできる限り影響を及ぼさないということです。

  例えば、喉頭がんは声帯にできるので、発声機能を温存するために放射線治療が行われることが多く、従来のやり方では、患者さんの首の5cm×5cmの範囲に放射線を当てるのが普通でした。つまり、声帯がどこからどこまであるのはということをあまり気にせず、範囲全部に同じ量が当てていましたが、最近は、できるだけがんに集中して当てるようになってきました。定位放射線治療、CyberKnife、Tomo Therapy、強度変調照射法(IMRT)など、いろいろな新しい照射の仕方があります。

6.陽子線による治療

 X線は波であり、体表に近いところで一番作用が強く、深くなればなるほど効果は下がっていきます。それに対して陽子線は、水素原子の原子核(陽子)をまとめて加速したもので、浅いところではそれほど効果がありませんが、ある一定の深さで非常にシャープな強い作用を示し、そこで止まってしまうという性質を持っています。これをBragg Peakと呼びます。実際はがんには大きさがあり、その大きさに合わせて治療しなければいけないので、SOBP(spread-out Bragg Peak)といってBragg Peakを広げて治療します。同じ量を当てた場合、X線に比べて1〜1.5割、条件によっては3割ほど細胞を殺す力が強いことが分かっています。

  正確に陽子線を当てるためには、かなり複雑な準備をします。最初に、患者さんごとに固定具を作ります。治療期間は2週間から1カ月、長い人は2カ月近くかかるのですが、その期間は毎回体重を測り、太っていないか、または極端にやせていないかをチェックします。どのように陽子線を当てるかという治療計画を作り、それに合わせて、コリメータ(病巣の大きさや形に合うよう、余分な陽子線をカットするもの)やボーラス(陽子線が止まる深さを調整するもの)を作ります。実際に陽子線を当てるときは、患者さんをベッドに固定して位置決めをし、ボーラスとコリメータをセットし、照射する角度を決めて照射ボタンを押します。

  ある鼻腔がんの患者さんは、がんが目のところまで進行しており、手術だけで治そうとすると顔の右半分をほとんど切り取らなくてはならないため、陽子線治療を選ばれました。1年半たちましたが、今もお元気です。局所制御率87%とか81%という成績が報告されています。

  81歳の男性の患者さんは、8cmもある、非常に大きな肺がんでしたが、治療後1年半で1cm以下になっています。陽子線を当てたために起こった周囲の肺臓炎もだいぶ収まっています。局所制御率は8〜9割という成績が報告されています。

  肝細胞がんの場合、3年生存率は、手術と陽子線治療で似たような数値になっています。陽子線治療の治療成績は、日本の2カ所の施設で87%、約9割は治るという感じです。ただし、局所制御率は9割ですが、がんが非常に大きく、照射範囲が非常に広いと、肝臓の働きが悪くなるために生存率は悪くなるというデータが報告されています。

  前立腺がんでも、手術と陽子線治療の治療成績は似たような数値になっています。尿あるいは便に血が混じるという、GI(消化管)・GU(尿路)における有害事象は、それぞれ100人中4人ぐらい残ります。胆管がん、食道がんなどの治療も、既に始めています。

  現在、日本には、私どもを含めて、陽子線治療を行っているところが7カ所、重粒子線(炭素線)治療を行っているところが3カ所あります。名古屋市、佐賀県、松本市でも、来年、新しい施設がオープンする予定です。

  陽子線がん治療の特徴をまとめると、SOBPという物理的な陽子線の性質をうまく活用して、がんに集中して照射するので治療効果は高く、正常組織への被曝は軽減されるので、副作用は少なくなります。ただ、周りに全く当てないということはできないので、副作用がゼロというわけにはいきません。低侵襲性のがん治療といえます。基本的にはベッドの上に寝ていればいいので、手術の困難な高齢者にも治療が可能です。

  従来、X線では治しにくいといわれた悪性黒色腫などにも効果があることが分かっています。手術と違って切らないので、治療後も治療前と同じ生活ができます。1回の治療時間は20〜30分なので、働きながら外来で治療できます。

  ただ、そのためにいろいろな装置や専門スタッフが要ります。また、新しい治療法なので保険診療の対象となっておらず、240万〜260万円を負担していただかなくてはなりません。最近のがん保険に付いている先進医療特約に加入していれば、この問題はクリアできます。

  しかし、陽子線治療は照射した部位にしか効果がないので、腫瘤を形成しないがんは治療対象になりません。また、転移等により、がん病巣が拡大してしまうと完治できません。ですから、すべてのがんを治せるわけではありませんし、早期発見、治療が重要です。

  検査法にしても、治療法にしても、リスクとベネフィットを考えなければなりません。全く副作用がない治療はあり得ないので、いろいろな治療法の中で、自分にとって一番良い治療法を選ぶことです。そのためには、正しい知識と正しい情報を得る必要があります。

  皆さんは教師として教育の場にいらっしゃいますので、ぜひ次の世代の人たちに放射線に関する正しい知識を与えていただきたいと思います。

 
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