先生のためのセミナーレポート


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時:

平成28年11月24日(木) 14:00 〜 17:00

場  所: 福井商工会議所ビル 地下 国際ホール
主  催: 福井県環境・エネルギー懇話会
共  催: 近畿・北陸エネルギー教育地域会議
後  援: 福井県教育委員会
福井市教育委員会
■ 基調講演

演 題

「どうなる暮らしのエネルギー 〜電気代、自由化、温暖化〜」

講 師

NPO法人 国際環境経済研究所
  理事・主席研究員 竹内 純子 氏

講師プロフィール:

慶応義塾大学法学部卒業後、1994年東京電力入社。国立公園「尾瀬」の自然保護に10年以上携わり、農林水産省生物多様性戦略検討委員会や21世紀東通村環境 デザイン検討委員等を歴任。その後、地球温暖化の国際交渉や環境・エネルギー政策への提言活動等に関与し、国連の機構変動枠組条約交渉にも参加。2012年より現職。

(要旨)

1.日本のエネルギー政策の基本

 エネルギー政策の基本は3E(Economy・Energy Security・Environment)+S(Safety)といわれていますが、そのバランスを取るのは非常に難しいのが現実です。

 その理由は、二つに整理できます。一つは、どういうバランスが良いのかは、その国の置かれた状況、すなわちその国が持つ化石燃料資源(石油・石炭・天然ガス)、自然エネルギー資源などの資源の量、あるいは人口、産業構造、気象などのさまざまな条件によって異なることです。私はよく、一般の方から「ヨーロッパでは地熱100%で賄っている国がある。なぜ日本はできないのだ」と聞かれます。確かにアイスランドは地熱資源が豊富で、地熱と水力でほとんどのエネルギーを賄っていますが、アイスランドの人口は約34万人で、東京都の新宿区と同じぐらいしかいません。産業構造は、金融業なども一部ありますが主には漁業で、魚を捕ってくるのにそんなにエネルギーは要りません。一方、日本は化石燃料資源が少なく、完全な島国です。これは決定的な違いで、他国と同列では議論できません。

 もう一つは、時間軸の違いです。私は去年の8月にNHKの「日曜討論」という番組に出たのですが、私以外の3人の識者の方が「2030年には脱原発をして、新しいエネルギー源で」とおっしゃったときに、この人たちと私は時間軸が違うと思いました。私は電力の現場にいたことがある人間なのですが、インフラを整備する側の人間にとって、2030年というのは遠い将来ではなく、明日のような感覚です。実際、もう既に計画に着手している送電線、発電所の竣工が、用地買収などに時間がかかり、2030年になるということも大いにあり得ます。

 太陽光発電も、原理が発明されたのは1800年代です。商品になって普及し、エネルギーの一翼を担うまでには本当に長い時間がかかります。日本ではまだ数パーセントに過ぎません。このような二つの理由から、3E+Sのバランスは超長期の時間軸で考える必要があるということを、私たちは意識しておく必要があると思います。

 エネルギー源には石炭、LNG、石油、原子力、再エネが挙げられますが、それぞれに特徴があり、一長一短で全てに秀でた電源はありません。日本のような島国で、自国にエネルギー源を多く持たない国は、取りあえず持っている技術は全て手中に入れておかなければいけません。手放していい技術は一つもないという意味で、私は再エネも原子力もやらなければいけないし、石油、石炭、LNGに関しては、調達先の多様化と、一つの化石燃料に依存しないことを念頭に置いて、エネルギーミックスを実現していく必要があると考えています。

2.3.11以降の日本のエネルギー構成

 では、今の日本のエネルギーの状態はどうなっているのでしょうか。以前は日本の電気の3割を賄ってくれていた原子力発電は今、ほぼ停止状態です。稼働を認められているのは九州電力の川内原発1号機と2号機、四国電力の伊方原発3号機の計3基で、九州電力の2基は今、定期検査に入っています。

 一般の方は、その分「再エネが増えているのではないか」とおっしゃいます。確かに再エネは急速な勢いで増えてはいますが、まだポーションとしては小さく、太陽光、風力など、水力を除いた再エネが賄っている電気は3.2%に過ぎず、水力を入れても10%くらいにとどまっています。ただし、前年は2.6%ですから、伸び率としては非常に大きなものがあります。

 その中で、震災以降、電力の9割を火力発電に依存しているというのが日本の現状です。元首相は「原発は止まっているけれども、何も起きていないではないか」と言われますが、密かに起きていることがあるということを承知しておかなければなりません。

 まず、エネルギー自給率は今6%で、OECD加盟国34カ国中33位です。政府は食糧自給率が40%台になっていることに非常に強い危機感を示していますが、エネルギー自給率はとっくの昔に一けたです。原子力は燃料の備蓄性が非常に高く、準国産のエネルギーとしてカウントするのが国際的なルールなので、今まではエネルギー自給率20%程度を維持していたのですが、今はそれが止まっているので6%です。非常に怖い数字です。

 化石燃料がないという点で、日本と韓国は非常に類似しています。韓国は化石燃料をほとんど産出しないことに加えて、地続きが北朝鮮なので、送電線をつなぐわけにもいかず、化石燃料をほとんど海外から輸入しているのですが、韓国も原子力を導入して何とか20%ぐらいの自給率に持っていっています。

 原子力が止まって化石燃料の輸入が増えれば、当然、輸入燃料費が増えます。2013年度の実績で、1年間で増加した燃料費が3.6兆円です。1年365日で割ると1日100億円、1秒10万円が海外の産油国と産ガス国に流れ出ていたことになります。ただ、2015年は原油価格の下落と川内原発の再稼働で、2.3兆円にとどまっています。ちなみに、これは消費税が1%が上がったのと同程度の国民負担です。

 当然、電気代は上がります。原発の停止による燃料費の増分だけが理由ではありませんが、震災前と比べて2014年には家庭用で25%、産業用で40%電気代が上がっています。関西電力のエリアでは、これまで原発の寄与が大きかった分、2回の値上げがあり、特に中小企業からは、もうこれ以上の負担は耐え切れない、国内で生産活動を続けることをあきらめざるを得ないという声が上がっています。

 そして、当然のことながら温室効果ガス排出量も1億t弱増えてしまっています。この状態で去年、日本はパリ協定の採択に臨んで目標を出し、今年もほぼ同じような状況でCOPに臨まなければなりませんでした。

 このような状況を踏まえて、電気代と自由化と温暖化についてお話を進めていきます。

3.電気代はこれからどうなる

 私は大学卒業後、すぐ東京電力に入社して、最初に配属されたのは上野にある小さな支社でした。そこの窓口に座って、電気代を払いに来てくれるお客さまの応対や引っ越しの電話の受け付け、停電の際、お客さまのお叱りを受ける電話を取る仕事を丸4年していました。

 窓口に座っていると、年金暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんが、たくさん窓口に来店されます。電気代を3カ月分ためると電気が止められてしまいますので、2カ月遅れで年金の中から1カ月分ずつ、「いつも遅れてごめんね」と言いながら払いに来てくれるお年寄りがたくさんいたのです。それを受け取りながら、エネルギーは本当に生活財であるということ、値上がりが生活弱者にとってどれだけ厳しいことなのかということを、肌で感じていました。ですから、私はエネルギーのコストにこだわりたいと思っています。

 「エネルギー白書2015」にある、全国の年間収入別、年齢段階別の消費支出に占める電気代の割合を示したグラフを見ると、世帯年収が低いほど、高齢世帯ほど、その割合が高いことが分かります。日本には、実は年収300万円未満の世帯がたくさんあります。国民生活基礎調査では、世帯年収100万円未満が6%強、100万円〜200万円、200万円〜300万円がそれぞれ約13%ずつで、合計すると約3割が世帯年収300万円未満です。そのような方たちにとってエネルギーコストの上昇がどんな意味を持つのか。そこに消費税の上昇がダブルで乗ってきたときに大丈夫かという総合的な議論が、日本ではされません。こういったところにも、エネルギー政策は目配りをする必要があると強く思っています。

 ついでに申し上げますと、エネルギーコストの上昇の痛みは、実は地域によって結構異なります。特に厳しいのが、冬、寒さが厳しい地方です。地方では車の利用が多く、ガソリンの値上がりがダイレクトに響きますし、北海道や北陸など冬の寒さが厳しい地方は燃料コストが掛かるため、特に負担が大きくなります。

 今、電気代が上がっている要因の一つが原子力の停止による燃料費の増加で、既に家庭用で25%、産業用は40%上昇しています。これまでの追加的な燃料費の累計は14.7兆円です。ただ、これは今後、再稼働が進んでいけば、ある程度抑えられると思います。しかし、一方で増えていく懸念があるコストがあります。それが再生可能エネルギーへの応援コストです。再生可能エネルギーは純国産のエネルギーですし、CO2を出さないなどの強みがある一方で、弱みもあります。一番大きな弱みはコスト高、稼働率の低さで、太陽光、風力は間欠性がある不安定な電源です。震災後、この欠点を補うために、普及政策として固定価格買取制度(FIT)が導入されました。

 今、原子力のコストがこれまでいわれていたより高いのではないか、あるいは再エネは安くなっているのではないかと、各電源のコストについて疑心暗鬼になっている向きがあると思います。当然のことながら、政府は2030年に向かってのエネルギーの姿を描くに当たって、それぞれの電源が幾らで電気を作ることができるのかを専門家を集めた委員会で試算しました。原子力や火力が40年間70%、太陽光は20年間12%と、一定の稼働年数と稼働率を置いて試算すると、生み出す電気の量(kW×稼働率×稼働年数)が分かります。それを分母として、分子にコストを持ってきます。コストには、建設費、運転費、メンテナンスコスト、それに火力発電で言えば想定される燃料費、原子力もウラン燃料のコストが加わりますし、原子力で特殊に掛かってくるのはバックエンドのコスト、研究開発費、事故対策費などです。これで比べると、太陽光や風力、再エネは、2014年の段階ではまだ石炭やLNG、原子力に比べて高く、競争力がない、だから普及政策が必要だということになるわけです。

 今は発送電分離、電力自由化になって厳密には違うのですが、分かりやすくするために旧来のやり方でご説明させていただきますと、全量固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーで発電をする事業者の電気を、地域の電力会社が全量固定価格で長期間買い取ることを法律で義務付けるものです。地域の電力会社は、買い取った電気と自分が起こした電気を合わせて地域のお客さんに送ります。

 ここで問題になるのが、今お話しした価格の差です。地域の電力会社が水力、石炭火力など、いろいろなものをミックスしてうまくバランスして作ると、1kWh当たり平均20円ぐらいで電気ができます。一方、再エネの場合、初期のころの太陽光などは、1kMhの電気を四十何円で買い取ることにしていました。20円と40円の差額の20円は消費者が負担することになるのです。ですから、電気料金と合わせて消費者は賦課金を払うことになります。これは電力会社が一遍受領しますが、再エネ事業者に行くコストになります。

 買い取られるコストは、毎年、経済産業省が委員会を開いて決めます。今年、例えば10kW以上の太陽光の事業を始める方に、パネルの値段、土地の値段、施工費の平均を全部積み上げて、20年間この条件で買い取りましょうと委員会で決めていきます。当然のことながら太陽光パネルの普及等に伴い、買い取りの値段は下げられていくのですが、それで消費者の負担も下がっていくというのは大いなる誤解です。

 わが家では、今年の4月、1カ月5500円の電気代の中の670円が賦課金でした。これは制度が始まった2012年には数十円だったはずです。数十円であれば再エネを応援したいと私も思いましたが、数年で何百円にもなっているのです。

 技術の普及に伴って買い取りの価格が下がっていけば、消費者の負担も下がっていくと思っておられる消費者の方が非常に多いのですが、逆です。1年目、われわれ消費者が負担するべきコストは、この年、事業を始められた人が発電した電気を買い取るお金をみんなで割ればよかったのです。2年目、AさんとBさんが事業を始めたとすると、そのコストをまたみんなで割ります。そして、3年目、Aさん、Bさん、Cさんと負担が増えていって、それが継続するということが非常に恐ろしいのです。例えば今の段階で、再エネのFITの賦課金が重過ぎる、応援はしたいけれどもという声が世論として高まって、この法律と制度がなくなったとします。しかし、私の検針票の賦課金がその瞬間なくなるわけではありません。なぜか。20年間の買い取りを約束しているからです。ですから、これは消費者の負担がコントロールできない、継続するというところに怖さがある制度なのです。

 こういった試算が出て、今年春の国会で、政府は太陽光に偏重している全量固定価格買取制度の見直しを行いました。それでもまだ完全に消費者の負担をコントロールできるようなものではありませんので、今後も継続的に、いかに消費者の負担を減らしながら、費用対効果良く、再エネを入れていくかを模索し続ける必要があると思います。

 海外では確かに、太陽光や風力発電などが化石燃料と同等ぐらいのコストで供給できるような所もあります。しかし、それは自然条件が良かったり、土地が広いなど、さまざまな条件の違いがあります。加えて、日本はFITが再エネ事業を甘やかしすぎてしまったところもあると思います。日本の再エネのコストは今でも海外の倍近く、特に太陽光については倍近い状態から下がってきていません。この問題をどう解決していくかです。

 この制度はドイツをまねて作ったのですが、ドイツは2000年からこの制度を導入して、以後、賦課金が増えていきました。今では一般家庭の賦課金の負担が年間2万円にのぼるようになり、ドイツでもさすがに問題になってきています。日本は2012年にこの制度を入れて、賦課金の額はドイツが10年かけてたどり着いたところに、わずか4年でたどり着いてしまいました。2012年は状況が状況でしたから、致し方なかったと言えばそうかもしれませんが、あのときに再エネは善である、原子力、火力は悪であるという善悪論でエネルギーという現実の商品を論じてしまったことが、制度設計の失敗の原因だったと思います。

 再エネは、直接的なコストが高いというだけではなく、この島国日本でうまく運用していくには、追加的なコスト、間接的なコストが掛かります。再エネは地産地消とよく言いますが、再エネで地産地消ということは、不安定性もその地域で吸収しなければいけないので非常に大変なのです。確かに大消費地に送って大量に使う電気の一部にすれば、その変動は気にならなくなりますが、それには送電線の整備が必要です。試算の前提の置き方はいろいろありますが、北海道・東北という非常に風況が良いエリアにたくさんの風力が590万W(火力発電5〜6基分)が入った場合に、北海道と東北の連系線含めて整備すると、1兆1700億円ぐらい掛かるだろうという試算が示されています。

 もう一つ、追加的に掛かるコストとして、こういう不安定な電源と付き合うためには、人間が素早く調節できる火力で調整する必要があります。これは送電線の建設・整備具合、大消費地での吸収がどれぐらい進むかとの兼ね合いもありますが、調整電源で調整することになると、火力の火加減調節を繰り返すことになります。火加減調節を繰り返すと、火力発電は非常に効率を落とします。そして、燃料費が増えることになると、数千億円規模で燃料費が増えてしまうと試算されています。そして、それは電気代なのか、税金なのか、結局、国民が負担することになります。

 もう一つ私が気になっているのは、再生可能エネルギーの廃棄のためのコストです。これは今、特に地方に行ってお話しすると、自分も気になっていたという方が非常に多いのです。分散型電源というと、非常に良い電源と理解される一般の方は多いのですが、分散しているということは、廃棄のときに回収するルールの徹底が非常に難しいということを意味します。山の中も含めて、いろいろな所に今、分散型電源が設置されています。平成42年の段階で70万tが廃棄される設備になるだろうという環境省の試算が出ていますが、きちんと回収させることができないと、今の空き家問題と同じ問題が生じてきます。今、廃棄のコストは皆さんがFITの賦課金に含めて払っていますが、それを事業者が20年後、30年後の撤去の時期までプールしておかず、倒産して逃げてしまった場合、山の中にパネルを放置するか、税金で撤去するかという話になります。税金で撤去した場合、皆さんは二重払いになるのです。

4.自由化で何が変わる

 電力自由化については、多分、皆さん非常に分かりづらいと思います。もちろん消費者の選択の自由も出てきますが、基本的には参入規制の撤廃、料金規制の撤廃という事業の規制を撤廃することなので、事業者もお客さんを選択する自由を手にするということです。

 自由化にはどんなメリットとデメリットがあるのか。今までは政府が絶対に安定供給を果たさせることを目的に、10年後の電源計画を出させて、それに向けてきちんと投資が進んでいるかもチェックする形を取ってきたのですが、そんなことをしなくても、電力事業がもうかると思えばみんな投資するでしょう。政府がしゃしゃり出て規制をして監督すると無駄が生じるということで、効率性を向上させて、価格を低下させるために自由化を行うのです。メリットとしては、ユーザーの選択肢は多様化されますし、経営競争による産業構造の変化なども期待できますが、中長期的に供給力が不足していくというデメリット、あるいは温暖化対策などとの齟齬というデメリットも当然あります。

 ですから、自由化を論じる前に、なぜ今まで自由ではなかったのかを考えてみなければなりません。総括原価方式や地域独占は、特に福島の事故以降、悪の権化のように語られました。総括原価方式や地域独占は電力会社の利益を保証するためのもので、電力会社はそれにあぐらをかいて、殿さま商売をやってきたという文脈でよく語られましたが、その当時そう定められたのには、それなりの理由がありました。やはり電気を安く作るには規模の経済性、スケールメリットを働かせることが重要である。地域の中に複数の電力会社があるよりも、単独の会社がまとめて供給する方が効率的だと考えられたのです。特に電力インフラについて見過ごされがちなのが、投資の額がけた違いだということです。例えば今、LNG火力発電所を1基造るには、1700億〜2000億円掛かります。原子力発電所は、最初は4000億円などといわれていましたが、今の状況だと4000億〜6000億円掛かると思います。

 それだけの規模の資金調達をするとなると、利子が非常に大きく作用してきます。銀行が貸したお金をきちんと返せるのか不安に思うようだと、住宅ローンと一緒で高い利子を設定せざるを得ないのです。そうなると、電力会社はその利子を電気料金に込めて回収せざるを得ないので、その分、電気料金を上げざるを得ません。電力の黎明期に、松永安左エ門という電力の鬼と呼ばれた方が「まさに資金調達の利子は電気代に直結する」と言っていますが、それぐらい規模が大きな話なのです。

 総括原価方式とは、どれだけお金が掛かっても、どれだけ年数が掛かっても、掛けたお金は電気代できちんと回収できるように料金審査で認めるという方式ですから、確実に回収できるのです。それが分かっているから銀行も低利でお金が貸せ、その分、電気代を安くできることになるわけです。このような理由から、地域独占と供給の総括原価方式が採用されたのですが、独占する代わりに、どんな山間地域へもまちなかと同じように電気を送りなさいという供給義務が課せられていました。

 電気の黎明期は本当に自由競争でした。なので、ある建物の1階にはA社が線を引き込んで電気を供給し、2階には違う会社が線を引き込んでお客さんを取るということをしていたので、町の上空が電線だらけになってしまうということが実際に起きていました。これは効率的ではないということで規制が行われるようになり、特殊な産業になっていったのです。

 ですから、自由化を今のタイミングで実行したことに対して、私はもう少しよく考えるべきではなかったかと思っていますが、自由化という形で消費者の選択肢が増えるのは、非常にいいことだと思います。ただ、今、日本の消費者の方は、自由化→競争→安くなるという、非常にある意味シンプルな三段論法で理解されている方が多いです。なので、安くならなかったら多分、だまされたと思うと思います。自由化とは、実際には上がる可能性もあるし、下がる可能性もあるという状況なのです。

 諸外国でどうなったかという結論だけお話しさせていただくと、1990年代後半から欧米各国で自由化が行われた結果、10年間を見ると決して下がっている国ばかりではありません。最初の数年は下がったのですが、後に上昇に転じてしまった国が多いというのが歴史的な事実です。日本エネルギー経済研究所の『諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査』を見ると、2000年代半ば以降は、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じており、自由化によって明確に電気料金が引き下げられたと言える事例はほとんどないとされています。ですから、自由化で電気料金が安くなるものではないと理解していただくとともに、自由化の時代は消費者が自衛をしなければいけない時代だと、教育の中でお伝えいただければと思います。

 そればかりか、自由化をした諸外国で出てくる課題として、中長期的な供給力不足を生じる可能性があります。これはメディア等でほとんど報じられていませんが、自由化したドイツやスペインで顕在化してきている問題です。ピークを賄うような電源である石油や揚水の発電所などは、いざというときに働く設備なのです。いざというときに働いて普段は休んでいる設備は、イコール稼働率が低いのです。そのような設備は、1年に何時間かあるか分からない、一番多く電気を供給しなければいけないときにはものすごく役立つのですが、そのときしか働かないような設備は、事業者としては絶対に持ちたくない設備なわけです。さらに、今までの構造に再生可能エネルギーが優先的に入ってくると、稼げる幅がすごく少なくなってしまいます。そうなると、事業者は当然のことながら、稼ぐ機会を失った電源は廃止していきます。

 ドイツなどでは安い国内産の褐炭を使った電源などは火力発電の中でもまだ生き残っていますが、効率の良い、環境性も高い天然ガス火力の廃止が続きました。最新鋭のガス火力を廃止するとE.ONという事業者が発表したときに、さすがにドイツ政府は焦りました。それで、その設備を持っていてくれることに対して政府が対価を払うという制度を作ったのです。発電所維持の対価として6000万ユーロを受け取っていると報道されたのですが、これは政府と事業者の相対取引で、闇の中ですから、国民は幾らコストを負担しているか分からないのです。ただ、今はもうオープンになっているかもしれません。

 日本は今、原子力を含めればキャパシティーに余裕はありますが、今、原子力は稼働していないので、他の欧米各国よりもかなり早い段階でこの問題が顕在化すると見られています。そのために設備を持っていてもらうことに対して、何らかのインセンティブを与えるような方策を作らなければいけないのではないかということで論じられているのが、容量市場や容量メカニズムといったものです。

5.温暖化の現実とこれから

 温暖化の話も、生徒さんに教える上で難しく、悩まれる点もあるかと思います。インターネットを開けば、実は氷河期が来ているとか、太陽の黒点の移動のせいだとか、いろいろな説が飛び交っています。そのようなときにリファーしていただくのは、やはり科学的な根拠ということで、IPCCが最新の第5次報告で何を言っているかを見たいと思います。

 やはり温暖化は起きています。気温の上昇は見られます。それが人間のせいかどうか。これは実は100%の確度ではないのですが、今までの累積の人為的なCO2の排出量と温度上昇はほぼ関係がありそうだということで、95%の確率で人間のせいだとしています。

 では、気温が何℃上がったらどんな影響が出るのでしょうか。生物多様性、異常気象、影響の分布、氷床の崩壊など、どんな項目においても産業革命前からの温度上昇の幅が2℃を超えてくると、非常に大きな影響が出てくるという感じが見受けられます。ただ、あまり科学的に何℃だとどうとは言われていません。

 これを緩和させていくためには何が必要かというと、とにかくCO2、温室効果ガスの排出量を2050年には4〜7割、2100年にはほぼゼロにすることが必要だとしています。この時点で無理だと言われているようにも見えますが、このようなレポートは無理という書き方はしません。どんな無理なことであっても、こうすればできると書きます。

 その鍵は、エネルギーの低炭素化になります。これから人口が増え、エネルギーの使用量が増えていく中でCO2を削減するには、一次エネルギーに占める低排出エネルギーの割合を、2050年に8割、2100年にほぼ100%にすることが必要だといっています。

 低排出エネルギーとは、一つは再生可能エネルギーで、一つが原子力、もう一つが火力発電でも今、CCS、Carbon dioxide(CO2)、Capture(回収)、Storage(貯蔵)という技術が開発されています。ただ、コスト的に非常に厳しいので、ほとんど稼働しているものはありません。あるいは、それをバイオマス発電でやると、CO2をマイナスにすることができます。BECCS(ベックス)という技術です。木は空気中のCO2を体に固定していますが、これを燃料として燃やして、出てきたCO2を地中に埋めてしまえば、長い時間をかけて木が固定してくれたCO2を地中に埋めてしまうので、CO2をマイナスにすることができるわけです。

 気温自体は産業革命前から既に0.85℃上昇してしまっていますので、2℃以内といった場合、あと1℃強しか上がり幅はありません。そのためには、すぐにでもエネルギー源の低炭素化を図っていかなければいけないのですが、今申し上げたようにそれぞれ問題があります。再エネやCCSも実際の技術が普及するとなると、多分、社会的に相当反発が出てくると思います。日本は今、苫小牧と新潟沖で実証実験をしていますが、中越沖地震が起きたときに、国会で中越地震が起きたのはCCSのせいではないかという質問がなされたりしています。バイオマス資源燃料は、食料生産とぶつかってしまいます。原子力ももちろん問題はあります。

6.国連気候変動交渉がもめる理由

 温暖化については、国際交渉の場面で常に議論が行われています。COPの場でも非常に多くの議論が行われていましたが、なかなかまとまりません。パリ協定はまとまりましたが、あれは各国に自由に決めさせるという仕組みだから採択できたのです。

 もめる理由は、幾つかテクニカルなものもありますが、本質的には自国の経済成長を妨げるような制約は負いたくないということです。ある国がある年に稼いだGDPと、その年のCO2排出量を全部プロットすると、きれいな相関関係ができるのです。地球温暖化ですから、自分が減らそうが、中国が減らそうが、アメリカが減らそうが、効果は同じです。ですから、お互いにあなたがやりなさいということになるわけです。

 もちろん例外はあります。イギリスのように昔の鉄鋼業から金融業、観光業に産業構造がシフトして、GDPが伸びてCO2排出量は減るということも当然あり得ますが、基本構造は正の相関なので、国連交渉はもめるのです。日本の新聞の社説には、COPの前には必ず、「日本は自ら高い目標を掲げ、他国の交渉をリードすべきだ」という一文が入ります。では、鳩山さんが異様に高い目標を掲げたときに、日本に続いて諸外国がうちも5%目標を積み増しする、10%上増しすると言ったかというと、どこの国もそんなことは言いません。拍手して終わりです。それはどこの国もこの構造を分かっているからです。パリ協定も、詳細のルールづくりの議論はこれからということになっています。

 1点だけ補足しておきますと、日本はパリ協定の批准が間に合わなかったので、オブザーバーになって、パリ協定の詳細ルールづくりの議論に加われない、大変だと各メディアは相当書いたと思います。それはそもそも間違いです。そもそもパリ協定のルールづくりは、気候変動枠組条約という条約に加盟している国全部で5月ぐらいから議論を始めており、日本もその中に入っています。そこで議論されたものをパリ協定の締約国会合で採択するという役割分担なのですが、そもそも草案ができていないので採択するものがないのです。だから、一切不利益はありませんでした。ことほど左様に、温暖化の報道は結構いい加減なものが混ざっていますので、ぜひ真実の姿を知って、生徒たちに伝えていただきたいと思います。

 

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