先生のためのセミナーレポート


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時: 平成23年11月24日( 木) 14:00 〜 17:00
場  所: 福井商工会議所ビル 地下コンベンションホール他
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
後  援: 福井県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 原子力安全研究協会
■基調講演

演 題:

「 これからのエネルギー・環境教育 」
講 師:

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官
清原 洋一 氏

講師プロフィール:

1985年 筑波大学大学院博士課程物理学研究科修了。
茨城県立取手第一高等学校教諭、茨城県教育研修センター情報教育課指導主事、等を経て2002年より現職。
国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部教育課程調査官を併任。
日本科学教育学会所属。

(要旨)

1.東日本大震災やそれに伴う原発事故によるエネルギー環境教育の方向性

 東日本大震災とそれに伴う原子力発電所の事故によって、私たちは、社会のあり方について根源的な問を突きつけられました。そんな中、これからエネルギー・環境教育をどうしたらいいかと考えている先生も多いかと思います。

 今年度から来年度にかけて、順次実施されることが決まっている新学習指導要領ですが、今回の改訂もエネルギーや環境などをかなり意識してつくっています。

2.新学習指導要領で求めるもの

(1)「知識基盤社会」の時代と「生きる力」

 今回の指導要領の基になった中央教育審議会の答申にも「生きる力」はうたわれていますが、それだけではなく「知識基盤社会」という言葉が繰り返し登場します。特に21世紀は、何かの情報を発信しようと思えば誰でも世界中に情報を発信できる時代です。ですから、知識に国境はなく、グローバル化が本当に進んでいます。また、知識も日進月歩で競争や技術革新などもあり、発想の転換などもたびたび必要とされるでしょう。
 では、その中で必要な力とは何でしょうか。それは何を解決すればいいのだろうかと常に考えながら課題を見出し、発見し、解決する力です。時代の変化が激しいため、その状況を正確にとらえて、そこに置かれている課題は何か見極めなければなりません。それから、次々と手に入る新しい情報を取り込みながら、いろいろな状況に対応する力が必要になりますが、そのベースとなるのは義務教育です。特に成長するにつれこの力はますます重要になりますが、一方で環境保全という問題も発生します。

(2)学習指導要領改訂の基本的な考え方

 改正教育基本法でも以上のようなことは明記されていますが、それとは別に「生きる力」も重視されています。これは過去にも示されたものですが、今後さらに重要になるという理念を共有したいと思います。

 つまり、知識基盤社会では、知識・技能の習得のみならず、思考力・判断力・表現力なども併せて必要です。そして、学習意欲面でも改善を図るため、心・体の面も含めて総合的に子どもたちを育てるため、今回の改訂が行われました。

(3)教育内容に関する主な改善事項

 さらに今回は、改訂の中で言語活動、理数教育、体験活動、それから、教科横断的な視点から環境教育も充実すべき事項として取り上げられています。

(4)環境教育の充実の必要性

 特に環境教育の充実については手厚く書かれています。エネルギー環境問題は人類の存続・繁栄に大きくかかわりますが、特に日本の場合は自前のエネルギー資源を数%しか使っておらず、ほとんど輸入に頼っています。そして、環境保全は重要な人類の課題です。

 これからの時代は、一人一人がエネルギー・環境といった視点に立って行動することがますます必要です。理科教育においてもそのような科学的な視点から学習することが重要であり、方針の中にもそういったことが示されています。

 実際に環境を保全する際、自然を自ら感じ取り、保全の大切さを本当に身に染みて感じるといった心の面も重要になります。その必要性についても今回の改訂では強調されています。

(5)環境教育の指導内容の充実

 環境は一つの教科・領域にとどまるものではないため、いろいろな教科・領域等でその特質に応じてより充実させることが、中央教育審議会の答申でも示されています。高校では、「地歴」「公民」で環境や自然エネルギーについて社会的な課題を認識し、改善を図っていく、さらに「理科」「技術・家庭科」、ほかの教科・領域においても充実を図るなど、その時々の発達に応じて適切な教育が必要でしょう。

(6)国連持続可能な開発のための教育(ESD)について

 特に今回の改訂ではESD(Education for Sustainable Development)、持続可能な開発のための教育が強調されています。さまざまなニーズを満たしながら、しかもそれが持続可能であることが教育においても重要です。

 ただし、実際に環境の保全、経済・社会の発展の両方を見据えて、持続可能な開発の実現について考えられる人材を育てるには、実に幅広い、さまざまな視点が必要です。ESDは日本全体で提唱されていることなので、それぞれの教科・領域からバランスを考慮して行う必要があります。

3.「理科」の改訂

 中学校の「理科」の指導要領に放射線が取り入れられたのは30年ぶりです。昭和40年代、教育の現代化がいわれた時代までは「放射線」が教えられておりましたが、その後の改訂で高校に送られていったのです。今回、「放射線」という言葉が復活したのですが、重要な要素は放射線だけではありません。

(1)理科教育における課題

 理科教育において挙げられた五つの課題について、以下に示します。

 まず、「子どもの理科の学習に対する意識」です。実際の子どもたちは、そこまで理科を嫌っているわけではありません。実際に子どもたちがどういう学習をして、どのように身に付いていくかを調査するという私の仕事の中で、「理科」の学習は好きかどうかきいてみました。小学校の4教科、中学校の5教科の中では、「理科」が好きと答えた子どもが一番多かったのですが、役に立つかどうかを尋ねると、ほかの教科の方が「理科」よりも役立つと答えた子どもが多くなるという結果になることがありました。

 「理科」の積極性を尋ねると、ほかの国の方が高い結果になることがあります。日本人は控えめに答える傾向があり、国際的なアンケート調査で一概には言えないかもしれませんが、やはり「理科」の有用性についての意識を高めるための改善が必要になってきました。
 また、内閣府が毎年1回、国内から抽出して行う調査によれば、科学に対する高い興味・関心を持っている人も多い一方、科学や科学技術に対してあまり注目しない人も、近年増えつつあり、二極化の傾向にあるようです。

 「子どもの自然経験などの不足」は、実際に子どもたちを指導していて感じるかと思います。全国各地の子どもたちに対してアンケート調査で、木登りや魚釣りをしたことがあるかどうか尋ねると、「経験したことがない」と答える子たちが回を重ねるごとに増えてきています。

 私が最も驚いたのは日の出や日の入りを、小中学生の半数以上の子が見たことがないと答えたことです。私が小学生だったころは2.5キロほどの通学路を歩いて通っていたため、まともに家に帰ることは珍しく、帰ってきてもすぐランドセルを置いて外で遊んでいました。5時ごろの時報か、日暮れになって帰ることが多く、「日の入りを見たことがない」などというのは到底想像できません。昔に比べて今では結構人工的な遊びが増えてきて、安全に対する意識も高まっているため、自然に触れる機会が以前より減ったのでしょう。ですが、理科学習では自然自身を相手にするため、自然体験は非常に重要な要素です。

 とはいえ、国際調査で見たら、一部の課題を除き日本の子どもはトップクラスで、知識、理解、あるいは思考力や表現力という面で世界的には上位に位置づけられています。ただ、最低限知っておいてほしい知識や理解が意外と定着しにくいようです。

 平成17年度にわれわれは、「特定の課題に関する調査」を「理科」で行いました。ビデオ映像を見せて臨場感を味わわせた後、小学校5年生と中学校2年生にほぼ同じ問題を出しました。小学校5年生は物の溶け方について、例えば食塩を水に溶かした場合、その後の重さがどうなるかという学習をします。中学校になると化学変化を踏まえて質量の保存の法則を習います。そこで、食塩を水に溶かした場合の重さ、質量がその後どうなるかを、小学生と中学生に4択式で問いかけました。

 例えば20gの食塩を100gの水に溶かす場合、重さは120gが正解です。ところが4択の問題の正解率は6割を少し切った程度で、しかも数値を見ると小学校の方がわずかに正解率が高かったのです。物が溶けても全体の重さは変わらないことは、科学的に物を見る上では基本的なことです。しかし、なぜ物が溶けたときに重さ・質量が小さくなると考えたのか尋ねると、「食塩が水に溶けて見えなくなったから」と答えてくる子どもが結構います。また、例えば水が氷になって体積が増えるのを見て、「体積が増えたから重くなる」と誤解する子どもも多いです。これはいわゆる誤概念というものですが、それを打破しにくい状況が子どもたちにはあるようです。世界的に見れば日本はどちらかといえばしっかり定着している方ですが、科学的にものを考える力が必要であるという課題が挙がっています。

 逆に、以前は思考力や表現力に関する論述式の問題だと無回答が目立ったのですが、さまざまな調査によれば最近はだいぶ改善されているようです。これは先生方の努力のおかげだと思います。

 以上のことに対応するため、「理科」の改訂が行われました。

(2)理科改訂の基本的な考え方

 小学校、中学校の理科教育について、基本的な大枠は同じです。一つ目は、「科学の基本的な見方や概念の習得」です。科学的な概念にかかわりそうな知識を定着させ、さらに学年や学校段階が上がって考えを深める上で、特に重要な視点を手厚くするように今回は重視しています。

 二つ目が、「思考力、表現力の育成」です。小学校では問題解決型の学習を行わせ、中学校ではさらに、追求型の学習を実施します。観察や実験からある程度自分の仮説を立てさせ、なぜそうなるのかを考えさせることで科学的に探求する能力が育てられるでしょう。

 三つ目は、「理科」が好きであることが前提ですが、さらに「有用感も実感させる」ような学習を展開させることを強調しています。
 また、「自然体験や科学的体験の充実」も図られています。

(3)中学校の指導要領

 中学校の指導要領では、1分野と2分野それぞれに目標があり、1分野では科学技術の発展と人間生活とのかかわりについて認識を深めることが、2分野の方では生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度が、それぞれの(4)でうたわれています。今までも似たような言葉は入っていましたが、今回はさらに強められ、新しい学習項目もそこにつながるものになっています。環境保全という重要な視点と、科学技術をどう利用し調和させるのかということを一人一人が考えられるようにしています。また、解説の方では意思決定をかなり強めて示しています。

(4)小・中・高等学校理科の学習のつながり

 実は、小学校と中学校の部分しか、まだ「指導要領解説」には掲載されていません。高校の「指導要領解説理科編」には、最初の必履修部分の系統性のある科目までしか入っていません。その中で、今日はエネルギーのところを中心に見ます。「生命・地球など」と示された中からキーワードとして出た四つを基に、小・中・高の理科学習にどのようなつながりがあるかをおおよその図で示します。実際には、教科や分野で横や斜めにも複雑なつながりがありますが、ここでは学年の上下でどのようなつながりがあるかを見ていきたいと思います。

 エネルギー分野で教えるものの中には、さらに「エネルギーの見方」「エネルギーの変換と保存」というやや小さな分野があります。理科学習において最も重要なのは、科学的にエネルギーをとらえる学習です。そのために、小学校からの積み重ねによって、中学校3年生の段階である程度はっきり分かるようにしています。例えば、小学校では風やゴムの働きによって力、エネルギーの存在を実感させることから始め、それぞれ学習の段階に応じて充実させていきます。

 今回はさまざまな項目を指導内容に加えましたが、その中には放射線も入っています。また、科学的にエネルギーをとらえるだけではなく、日常生活や社会とのつながりでエネルギー資源にも少し目を向けてみる構成にしてあります。例えば中学校3年生は、少し資源にも視点を移しています。
 特に重要なのは、例えばエネルギー資源の項目で登場するエネルギーの変換効率などです。全体としてエネルギーは保存されますが、実際に使う場合に100%の有効利用はできません。実際の生活で、社会の中で、いかにエネルギーを有効に利用するかがこれから重要な視点になるので、変換の効率という要素を入れました。

 それから、放射線です。30年間触れられませんでしたが、今回改めて指導要領に入りました。中学2年生では電子を、3年生では原子の成り立ちを習います。その中では、原子核の中に陽子・中性子があり、周りを回る電子の話が登場し、イオンについても学習しますので、それを踏まえれば理解できるはずだということで今回取り入れました。

 今回は福島の原子力発電所で事故が起きましたが、子どもたちには科学的視点から目に見えない放射線について正しい理解を持ってもらいたいのです。また、例えばエックス線やCT、あるいは医学的な治療など、さまざまなところで利用されている放射線について、義務教育段階で確実に学ばせるという目的もあります。さらに、自然環境の保全と科学技術の利用も重要な要素として登場します。中学生の段階でこの課題についてさまざまな情報を与えて考えさせても、せいぜい解決が非常に難しい問題であると分かる程度かもしれません。しかし、子どもたちには、それを考えていく必要性を感じ取って卒業してほしいので、そのためにこの内容を取り入れました。科学的視点で大枠を学習して、最後に資源にかかわる分野を学ぶという構成は、小学校と似ています。
 高校の方でも、物理基礎で原子力の安全性の問題にも触れ、同様に化学基礎でも同位体で登場するため、高校でもより早い段階で放射線についてもう少し深く考える学習ができるようにしました。

 中学校の「理科」の2分野では、同じように最後に入っています。ここでは自然環境の理解が学習のベースになっているのですが、最後に1分野と両方含めて考える構成になっています。

(5)平成20年告示 中学校指導要領

 何を指導するのが重要か、指導要領上でどのように示されているのかについて説明します。科学技術と人間は中学校3年生で学習する部分ですが、エネルギー資源も含めて最も求められているものは認識です。例えば、「人間は、水力、火力、原子力などからエネルギーを得ていることを知る」とあります。それぞれ長所、短所があり、それらについて認識を持ってもらい、さらに「その有効利用が大切である」ことを認識するようにと要領には書かれています。

 認識のほかに重要なものとして、態度があります。目標とされているのは、自然環境の保全と科学技術の利用のあり方を考える姿勢の獲得です。その上で「持続可能な社会をつくることが重要であることを認識し」、行動につなげる方法を考えてほしいのです。ただ、中学生からいきなり行動に移させるので、まずは積極的にかかわっていく態度を身に付けると指導要領上では示しています。

(6)疑問を持つ子どもに寄り添い科学的な判断力を

 『Science Window』という科学技術振興機構で出している冊子の秋号に「放射線をどう教えるか」というタイトルが付いています。そこに、私は「疑問を持つ子どもに寄り添い科学的な判断力を」というタイトルのメッセージを書きました。放射線をどこまで教えるか先生方は結構迷うと思いますが、科学的な性質とどのようなところで利用しているかを教えればいいと示しました。そこからどの程度深入りするかは迷うと思いますが、基本的なことを子どもたちが確実に学ぶ、理解することが前提です。そこから先は、子どもたちの疑問がそれぞれ違うので、それらを大事にしながら子どもと一緒に考える視点が重要です。

4.各教科の内容比較

 新しい内容について「理科」の視点からお話ししましたが、ほかの教科でもエネルギーや環境などをだいぶ重視しています。これは、子どもたちの中でそれを総合化してほしいので、先生方には総合化の観点からも指導してほしいし、ESDという視点は学校の中で大切にしていただきたいと思っています。

 それ以外に、例えば「エネルギー環境教育ガイドライン」は山下先生を中心に、私も若干オブザーバーとしてかかわっていますが、つくりました。また、放射線の資料は、例えば福島県とほかの地域ではだいぶ違うと思いますが、状況や必要に応じて活用していただくために出しております。子どもたちの中で総合化することを大切にしながら、ぜひ指導していただきたいと、私の方からは特にお願いします。

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