先生のためのセミナーレポート


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時: 平成23年11月24日( 木) 14:00 〜 17:00
場  所: 福井商工会議所ビル 地下コンベンションホール他
主  催: 経済産業省資源エネルギー庁
後  援: 福井県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
公益財団法人 原子力安全研究協会
■模擬授業

演 題:

「 学習指導要領改定で約30年ぶりに復活することとなった
放射線学習の模擬授業 」
講 師:

福井工業大学工学部原子力技術応用工学科 教授
砂川 武義 氏

講師プロフィール:

1997年 福井工業大学大学院工学研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員、大阪大学客員助教授、等を経て2011年より現職。
日本放射線化学会理事。日本原子力学会、日本化学学会等所属。
ふくい理数グランプリ実行委員会アドバイザー、原子力・エネルギー教育推進支援事業推進委員会アドバイザー、他。

(要旨)

はじめに

 今日はエネルギー環境教育セミナーという形で、みんなと一緒に勉強していきます。

 原子力による電気の供給が始まった1970年ごろから、人類のエネルギー消費量は急激に上がり、今は電気がなければ生活ができません。福井県には原子力以外にいろいろな発電所がありますが、重要なことは電気を県外にも供給しているという点です。カニや繊維、眼鏡と同じく、電気は福井県の特産品の一つと言ってもいいかもしれません。

 日本の発電量は火力が半分、原子力が3分の1を占めています。家庭で使う電気だけでなく、大きな工場を動かすためには大容量の電気を安定して供給しなければなりません。例えば半導体などは少しでも電圧や電流値が変わるとうまく物が作れません。そのため、大容量で安定した電気をどれだけ供給できるかどうかが、この国の産業を大きく左右します。福井県には原子力発電所が13基あり、日本全国の原子力発電所による電力の4分の1、関西圏については半分をまかなっているのです。昔、雷が落ちて原子力発電所の電気供給が止まった途端、大阪の地下鉄が止まるということがありました。ですから、われわれ福井県は、電気を生産して送り出している重要な県という誇りを持っています。

1.放射線とは何か

 この授業の中ではみんなに覚えてもらいたい言葉が三つあります。放射線、放射性物質、そして、放射能です。この三つの言葉をきちっと正しく使いこなすことが、この授業の主題です。新聞やテレビなどではよく、「放射線が漏れました」あるいは「放射性物質が漏れました」と言いますが、この二つの意味は全く違い、それをみんなには理解していただきたいのです。

 例えば、懐中電灯と放射性物質の二つを比べてみます。懐中電灯は光を出すための装置であり、放射性物質からは放射線が出ます。光を出す能力を懐中電灯は持っています。一方、放射線を出す能力を放射性物質は持っていて、この能力を放射能と呼びます。「放射線を出す能力」と言えばいいのですが、放射能と短くしてしまいました。今は「放射性物質」と「放射能」という言葉は分けて使われていますが、「放射能」と「放射性物質」が同じような意味で使われていた時期もあります。
 事故があったときは、放射線が漏れたのか、放射能が漏れたのかを聞きます。放射線が漏れた場合には、放射線が漏れないように囲ってやればいいのです。例えば、光を漏らさないようにするには、囲ってしまえばいいですね。ところが、放射性物質が漏れたら、それは物だから、きちっと回収するか、出たもの全部を囲ってやらないといけません。非常に言葉は似ているのですが、出すものなのか、出てきたものなのかはとても重要です。

2.放射線、放射性物質、放射能を発見した人たち

 レントゲンは世界で初めてエックス線を発見し、ベクレルは世界で初めて放射能を発見しました。レントゲンは医療で使うレントゲン撮影に名前が残っているし、ベクレルは単位として残っています。また、キュリー夫人は今から100年前にノーベル化学賞を取り、世界で初めて放射性物質のラジウムと、後にポロニウムも発見しました。昔はノーベル賞といえば、放射線や放射性物質などに関する研究に贈られていました。レントゲンは第1回なのですが、最初のころは放射線に関する研究者が非常に多かったのです。

3.放射線の種類

 放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、中性子線という種類があります。それぞれにはいろいろな性質があり、一番分かりやすいところでは、それぞれ物を突き抜ける力が違います。

 物を突き抜けるとは何か? 例えばもし僕がエックス線の出る装置の前に立ったとすれば、エックス線は僕を透過し、後ろのスクリーンには僕の骸骨が写ることになります。光と放射線の違いは、光ならば僕の影が後ろにできるのですが、放射線は物を突き抜けるため、突き抜けなかったが骨だけがスクリーンに映し出されるようになっているのです。

 放射線はどこから出ているのかがとても重要です。放射性物質から出る放射線は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の三つが非常に有名です。これらは何でも突き抜けるわけではありません。アルファ線なら、普通の紙でも止めることができ、ベータ線もアルミの板程度ならば止められます。ガンマ線とエックス線はともに波の性質を持っており、光とよく似た性質も持っているのですが、これらは物をよく透過します。病院のレントゲン撮影にはエックス線が使われますが、エックス線は一般的にレントゲン撮影機のような機械から出す放射線で、放射性物質から出るのはアルファ線、ベータ線、ガンマ線が主です。

 中性子線は何でも透過します。だから、アルミも簡単に突き抜けますが、水で止められます。中性子線も放射線の一つですが、原子力発電所で行う核分裂反応から出るもので、一般的に放射性物質から出ることはありません。

4.放射線の発生

 例えば、放射線はどこから出るのかという質問に対して専門家は「余分なエネルギーを持った原子は放射線を出して安定する」と答えます。これはとても重要なのですが、例えば、コバルト60などの放射性物質は放射線を出すと、最終的には放射線を出さない安定した物質になります。新聞やテレビなどでは、放射線を出すことを非常にみんな気にしますが、安定した状態になると放射線はもう出ないのです。

 例えば、夜にお風呂をわかして朝に入ろうとすると、お湯は冷えています。熱いものは熱を出して安定な冷えたものになります。これは全く同じ意味ではないのですが、エネルギーは外に出ていって、その周りと同じようなエネルギーになる、もしくは安定なエネルギーになると考えてもらえればいいです。余分なエネルギーが放射線として出ていって、最終的には安定します。最終的には放射線を出さない安定した物質に変わることを、ぜひとも覚えておいてください。

5.放射能の半減期

 福島で原子力発電所の事故がありました。そこで、必ずこの後どうなるのか、「放射能は減っていくのか」という質問が出ます。
 今日覚えてもらいたい四つ目の言葉は、半減期です。半減期とは、放射物質の原子の数が半分になることです。ナトリウム24は放射性物質です。ナトリウム24は放射線を出した後、安定して放射線を出さない物質に変わります。ナトリウム24は、例えば原子が12個あったものが15時間後には半分になり、マグネシウム24という6個の安定した原子を持った物質になります。ですから、半減期は原子が半分になる時間だと覚えてほしいのです。

 この話をすると、「半分になるのに15時間かかるのならば、30時間たったらなくなるのか」とよく聞かれます。15時間の半減期を過ぎれば原子の数は半分になりますが、さらに15時間たつと、その半分だったものがもう半分になります。すなわちはじめの数の4分の1になるのです。また半減期の時間がたてば、さらにそれが半分になるという具合にずっと続いていきます。よく「ゼロになるのか」と聞かれますが、測定装置が測定できない限界まで半減して検出できなくなってしまうので、これを一般的には「ない」と考えます。半減期は半分になる時間と覚えるのはいいとしても、倍の時間があったらなくなるかというとそうではないのです。

6.自然界にある放射性物質

 地球の誕生は46億年前なのですが、そのころは自然に放射性物質がたくさんありました。それが今まで放射線を出し続けなくなってきていますが、今でも土の中に放射性物質は残っています。例えばラジウム226、ウラン235、カリウム40やウラン238、トリウム232などですが、これらの半減期は非常に長いです。これらは例えば、石の中などにあるので、ある意味人間は放射性物質に囲まれた環境の中で生き、今まで進化してきたといえます。

 特に重要なのはカリウム40という物質です。植物が育つのには窒素、リン、カリウムの三つの要素が必要で、そのカリウムの中には必ずカリウム40という放射性物質が含まれています。だから、それを食べて育つもの中には必ずあります。例えば体重60キロの人間の中には、4000ベクレルのカリウム40が含まれています。だから、実はみんなの体からもカリウム40の放射線が出ているのです。

7.原子力発電所で作られる放射性物質

 もう一つ覚えておいてほしいのは、原子力発電所にある放射性物質、例えば今回の福島事故で有名になったヨウ素131やセシウム137などは、非常に短い半減期です。だから、地球ができたときにはそういうものが瞬間的にできたかもしれなけれども、今まで残っていることはないのです。今、問題になっているのは、このようなものは原子力発電所などで人工的にできた放射性物質だということです。例えばセシウム137などは30年たったら半分になるので、60年たったらその4分の1になって、90年たったらその8分の1になると言えます。

8.放射線の単位、量

 放射性にはそれを測る単位があります。例えば、ベクレルは放射能の強さを表す単位です。また、放射線を産業として使う場合には、物質に吸収される放射線のエネルギー量を表すグレイを使います。そして、一番よく新聞に出てくるシーベルトは、放射線が人体に与える影響の強さを表します。それはロルフ・マキシミリアン・シーベルトというスウェーデンの物理学者の名前から取った単位です。

9.「はかるくん」の使い方

 今から「はかるくん」を使って実験をします。「はかるくん」はテレビのリモコンに似た装置で、テレビのリモコンでいうと赤外線が出るところで放射線量を測ります。測定したいものの前に「はかるくん」を1分以上置いて測るのですが、ここがとても重要なところです。テレビなどでは測定装置をあてがってすぐにその数値を見ていますが、実際は1分ほど置いておかないと正確な値が出てきません。

○実験 「はかるくん」を用いて放射線測定を行う

10.実験の結果

 この実験の目的は、ガンマ線がどれだけ遮蔽されるかを見ることです。遮蔽しない状態で直に置くのと、アクリルによって遮蔽するのでは、ほとんど違いがありません。アルミよりもステンレスの方が遮蔽の効果はわずかにあると言えます。ただし、同じ厚みで考えた場合、鉛は非常に遮蔽効果があります。今回はこのように、遮蔽体の種類によってどれだけ放射線の透過に影響があるかを実験してみました。

 今、みんなで実験をやったのですが「放射線を測ってきた」と家で言うと、ご両親が心配し、「被ばくしたの?」と聞かれるかもしれません。「はかるくん」の放射線を表す単位はマイクロシーベルト毎時であり、1時間当たり何マイクロシーベルトを浴びたのかを測ります。一般的に人体に対してミリシーベルトという単位をよく使いますが、マイクロはさらにその1000分の1です。しかも、みんなが実験で使った時間は15分ぐらいですから、受ける影響は測った値よりもさらに低いのです。

 もう一つ知ってほしいことは放射線の効果です。放射線にはさまざまな効果があります。放射性物質が出すものに対して取る距離と放射線から受ける影響は比例します。だから、放射線から身を守るときは距離を取ったり、遮蔽するものの中に入ることが大事です。

11.放射線の人体影響

 放射線を浴びると健康影響があるというのは本当ですが、どれだけ影響を受けるかは浴びる量が重要です。われわれの周りには、例えば肥料や花崗岩できた門など、放射線を出すものが幾つかあります。人間は放射線を浴びると体の細胞に変化が生じますが、すぐに回復して元通りになります。ですが一定のラインがあり、量が100ミリシーベルト以下であれば、体に症状が出ないといわれています。

 例えば一人の人は、呼吸、食べ物、それから大地や宇宙から直接浴びるなどして、自然放射線を年間2.4ミリシーベルト浴びています。日本は世界と比べれば自然放射線の量が低く、逆にガラパリやラムサールなどの石に囲まれている地域は非常に高くなっています。かといって、それらの地域で特別がんなどが多いというわけではなく、人が住めないことはありません。

 ただし、全身被ばくをして100ミリシーベルト以上を浴びてしまうと、体のリンパ球は減少します。1000ミリシーベルトでは悪心や嘔吐があり、7000ミリシーベルト以上浴びると人は死にます。すなわち、健康への影響を考える上で、どれだけ浴びたかという量が重要なのです。100ミリシーベルト以下の被ばくについては、専門に研究をしている僕の立場からすると、できるだけ低い方がいいと言えるでしょう。放射線については、浴びたかどうかよりも、どれぐらい浴びると危険かということが重要なので、そこをぜひ理解してほしいのです。

 宇宙からの放射線量は非常に重要で、例えば人類は火星に行くとき、たどり着くまでに宇宙から無視できない量の放射線を浴びるため、行くことができないのではないかなどといわれています。われわれの地球は卵と非常によく似ていて、非常に薄い卵の殻のような大気が実はわれわれを放射線から守っているのです。

12.放射線の利用

 例えば、病院で使う注射器は袋に入れた状態で放射線を当てて滅菌します。化学性のガスを注入して滅菌もできますが、そのガスは発がん性物質をわずかに含んでいるので、放射線滅菌は人体にいいのです。

 それから、スノータイヤにはラジアルタイヤが使われています。昔のタイヤは高温になるとタイヤのゴムが弱くなったのですが、放射線を当てるとゴムが熱に強くなります。この技術によって今では放射線を当てないタイヤが少なくなってきたぐらいです。このように、普通の化学反応ではできないことが、放射線を当てることでできたりします。

 また、消臭タオルというものがあります。普通のタオルに放射線を当て、くさいにおいを分解する薬品を付けるのです。これで汗をふくとくさい成分を分解してくれます。あるいは、普通のマスクに電子線を当ててイソジンを付けたイソジンマスクを、日本原子力研究開発機構がつくりました。

 さらに、関西電子ビームという会社が福井県の三方にでき、普通のタオルに電子線を照射して、それにナノ粒子をくっつけたものをつくりました。消臭タオルと同じような技術で、ナノ成分をくっつけると抗菌性の高いものができるのです。

 特に海外の商品に打ち勝つために、電子線や放射線を使って新しい機能を付ける技術がこれからは役立ちます。ジャガイモに当てて発芽を抑えることもでき、また福井県立病院ではがんを治療する粒子線治療が導入されており、がん治療の分野などではこれから放射線がもっと実用化されるでしょう。イメージを気にして放射線の使用をあまり前に出さない企業も多いでしょうが、調べてみるといろいろなところで実用化されています。

「お礼の言葉」

鷹巣中学校 生徒代表

 本当に今日はいろいろありがとうございました。僕たちは今まで放射線についてあまり詳しく知らなかったけれども、放射線は量が大切だと分かりました。また、人間は放射線に囲まれて生活していると分かりました。

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