先生のためのセミナーレポート


テーマ: エネルギー・環境教育セミナー
開催日時: 平成21年11月27日(金)
場  所: 福井商工会議所ビル コンベンションホール (福井市西木田2−8−1)
主  催: 中部経済産業局 電力・ガス事業北陸支局
後  援: 福井県教育委員会、石川県教育委員会、富山県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
■基調講演

演 題:

「地球環境時代におけるエネルギー・環境教育の意義と課題」
講 師:

筑波大学大学院システム情報工学研究科
教授 内山 洋司 氏

講師プロフィール:

1981年 東京工業大学大学院 理工学研究科原子核工学専攻博士課程 修了。
1985年 米国電力研究所(EPRI) 客員研究員、1997年 (財)電力中央研究所 経済社会研究所 上席研究員を経て、2000年に 筑波大学機能工学系 教授、2004年より現職。
専門分野はエネルギーシステム分析、ライフサイクル評価。主な公職は、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員、経済産業省独立行政法人評価委員会委員、エネルギー資源学会編集委員会委員長、茨城県原子力審議会委員長など。2007年のノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書の作成に際し、代表執筆者として貢献。

(要旨)

1.エネルギーを取り巻く社会情勢の変化
1-1.国外

 グローバル化の流れで、世界が非常に狭くなり、情報技術や輸送機関の発展もあって、人や物、情報の移動が目まぐるしくなっています。この傾向はますます加速化します。また、産業活動の発展で大量の食糧が作れるようになり、人類史上なかったほど著しい人口増加をしています。わずか100年で3倍以上に増えてきました。
  人間活動はすべて工業化社会、すなわち科学技術の発展で支えられており、われわれは過去にもう戻れないという状況の中で、現代科学技術文明の維持が非常に大きな課題になっています。しかし、科学技術は大量の資源・エネルギーを消費して成り立っているものなので、当然環境に大きな影響を与えながら発展していくものです。その環境問題は昔は公害というローカルなものでしたが、今日は非常に広がって、地球温暖化など、地球規模の環境問題へと発展しています。これが今や人類の発展に大きな影響を与えるのではないかと危惧されています。
21世紀に入って、中国やインドをはじめとする新興国、BRICsが急激な経済成長、エネルギー資源の消費を始めるようになりました。開発途上国は世界の人口の約8割を占めているので、こういう国々が日本と同じような先進国として発展していくと食糧・資源が大量に必要になります。果たして将来、この地球上でそれだけのものを確保していけるのかという危惧もあります。
  一方、さまざまな制約、政治・思想面から、世界ではテロや紛争も絶えることがありません。そういう世界の中で、今後、われわれはどのような社会を目指し、これからの社会を担う子どもたちに教育をしていけばいいのかと考える時期になってきました。

1-2.国内

 国内では、相変わらず食糧・資源・エネルギーの海外依存度が非常に高い特性があります。資源のほとんどが海外から来るという厳しい状況です。エネルギー資源だけでも96%が輸入されており、日本はそういう資源を使って世界と貿易をすることで技術立国として成り立っています。そのためには、若い人たちが技術を担える、世界をリードする人になるような教育をせざるを得ないという流れがあります。
  産業構造を見ると、昔の重厚長大産業がオイルショック以降、サービス・ソフト産業へと大きく変換して、今や日本の経済力の中心はサービス・ソフト産業が主となっています。最近はどこの先進国も経済成長が頭打ちになってきて、物の消費が次第にそれほど大きくなくなる一方で、新興国であるBRICs、アジア諸国を中心とした国で急激な経済成長を遂げており、わが国の産業の多くがそういう国々に進出し、今やそこで貿易や人間交流をしないと日本も成り立たないような社会になってきています。
  わが国の社会基盤施設、道路・住宅・橋などを見てみると、地方においては不十分なところもありますが、大半は整備されてきています。むしろこれまで整備してきた社会基盤施設の維持・補修が今後の大きな課題になっており、日本経済は果たしてそのような産業発展でも発展していけるのかという課題があります。
  国内では少子高齢化がますます進み、今後ますます必要になる福祉に関する費用の確保という課題もあります。
  以上のような国内外の状況の中で、教育も非常に多層化・多様化が進んでいます。私も大学において、学生教育の形も随分変わってきたと実感しています。

1-3.情勢変化に求められる国・企業の対応

 「社会的な制約」が次第に大きくなって、「環境・資源制約」が非常に高まってきています。
  「社会制約」においては、国連やEU、日本でも法規制や条約の変化など、いろいろな面で制約が制度的に出てきています。温室効果ガスの排出量に関する制約が今、地球規模で進んでいます。
  企業においてもグローバルな視点からのCSR経営の要求が高まっています。そのほか家電リサイクル法、あるいは最近はNGO・NPOの活動が活発になって、これからの企業活動もそういうことを無視できなくなってきました。もちろん企業は環境や食の安全に対しても、もし怠れば市民による抗議活動やボイコット運動が進むので、このようなものを考慮して企業活動を進める必要があります。
  「環境・資源制約」においては、昔は公害・廃棄物問題でしたが、その影響がだんだん広がって、生態系への変化、地球温暖化による気候変化、資源価格の高騰、化学物質のリスク、あるいは鉱物資源の需給逼迫問題など、さまざまな制約が顕著になりつつあります。
  これからはそれぞれの国、企業が二つの制約の中で持続可能な発展を遂げていくことが課題になります。今後、持続可能な発展は「現世代のニーズを満たしながら将来世代の可能性を脅かさない発展である」と定義されますが、これに貢献する国、あるいは企業が生き延びていくという流れになると思います。

2.エネルギー問題
2-1.エネルギーシステム

 まず、物事はシステムとしてとらえることが大事です。システムは「複数の要素が有機的に関連し合い、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」と定義されています。その考え方がますます重要になってきています。一つのものだけでものをとらえるのではなく、社会全体のシステムの中でものを考えていくという姿勢、それが持続可能な発展の中で非常に大きく求められています。エネルギーシステムでいうと、エネルギー資源、エネルギー経済活動、あるいは技術そのものの発展、環境問題、リスクがあります。そのようないろいろな側面からシステムを考え、これからの社会の仕組みを考えていくことが必要です。
  エネルギーというのは資源の生産から始まり、それを社会へ供給するためのエネルギーの転換・輸送・貯蔵システムがあります。それらの新しくできたエネルギーが社会で使われるのが最終エネルギー消費部門といい、そこには産業・運輸・民生部門があります。こういう一連の流れの中で、まず「エネルギー資源の生産」においてはエネルギーの安全保障、セキュリティの問題があります。それから「供給システム」「最終エネルギー消費」においては皆さんが安心してエネルギーを使えることが大事で、そのための供給力の確保が必要になります。この一連のエネルギーシステムにおいては、環境性・安全性の面で皆さんが安心して生活できるという社会的受容の問題が大事になります。この三つの要件を満たすことで、エネルギーから見た持続可能な発展が可能になります。
  それぞれの目標は、「エネルギーセキュリティ」では「安定した資源調達」です。これは基本的には資源が量的に豊富なものに頼らざるを得ないということになります。かつそれが安定して社会に供給できるということ、それは供給力だけでなく、価格面の安定性もあります。
  そして、「供給力確保」の問題がありますが、これは「信頼できる供給」です。途上国などはたびたび停電でさまざまな被害がありますが、停電が起きると日本でも大変な被害が社会に出るので、そういう事態が起きないように常に施設は信頼性を高めて、日々保守点検が必要になります。また、立地の問題においても、地元の人の理解が大事です。一番難しいのが原発の立地ですが、これも受け入れる場所があって初めて安定供給が確保になります。技術には、必ずトラブルは起きるものです。それは大事故に至らないようなトラブルを抑えることが大事で、そのための信頼性の高い設備運用を常日ごろ開発に努力していかなければなりません。
  「社会受容性」においても「安全と安心の確保」は当然大事ですが、多くの人の努力によって初めて技術はそのようなものが保たれます。これは必ずしも原子力だけではなく、安全と安心の問題にはあらゆる技術があり、それに対して常にわれわれはその改善を努力しなくてはなりません。これは環境問題にもあります。大気汚染問題、水質汚染、土壌汚染などに対してどのように許容できる範囲まで抑えていくかが大事で、それについてみんなで考えていく社会になっていくことが必要でしょう。

2-2.基本要件の課題と対策方法

 実は、社会というのはすべてを満たすことはできません。その大きな要因は、技術的な課題、経済的な課題です。すべての要件を極限まで満たすとなると膨大な費用が掛かってしまい、社会的にまず受け入れられなくなります。ですから、あらゆる問題について安心できるレベルを考えて対策を立てることが大事です。
  例えば「エネルギーセキュリティの確保」では、「資源枯渇」という課題があります。枯渇性資源である化石燃料はいずれはなくなりますが、それを枯渇しないようにと言っても不可能です。それから「資源の偏在性」です。不公平なことに日本には資源はほとんどありませんが、石油は中東、天然ガスはロシアや中東に豊富にあります。再生可能エネルギーである風力やバイオマスにしても、日本にはそれほどありませんが、欧米にはもっと豊富な資源があります。それから「供給途絶」です。資源国において政治的不安定な状況は常にあり、海上での輸送問題も大きな制約になります。また化石燃料は常に価格高騰という不安定な要素があり、これも一つのリスクです。
  そのために国を挙げてこの対策に取り組んでいるのですが、一つは備蓄、あるいは国として新たな資源の確保、そのための開発、また供給国の分散、中東に対する予防的外交、また化石燃料の代替エネルギー開発、エネルギー消費を減らすようになるべく効率の高いエネルギー有効利用技術を開発するという対策があります。
  「供給基盤の整備」についても、大型電源であるものを建設するときは、何となく技術的な不安感が一般住民の中にあるかと思います。そういう点で立地問題が常に起きます。それから、開発主体にとっては大型設備投資は大変で、巨額な資金が要り、リスクもあります。また、エネルギーは常にどこの地域でも安定供給しなくてはなりませんが、費用はみんなで分担するという形で今の発電コストは成り立っています。それから、設備も当然、高経年化対策を立てなくてはいけません。また、エネルギーの使い方は、人あるいは産業によって非常に激しい変動があります。その対策も立てなければいけません。また、停電対策も要ります。
  その対策にはさまざまな方法が検討され、おかげでわれわれは何とか安心した電気を使えるような状況ができていると思います。
  3番目の「社会的な受容」、これは事故の問題です。日本も石炭に依存していた当時、毎年100人くらい炭鉱事故で死んでいました。それが今では海外の石炭にすべて頼るようになり、海外の炭鉱労働者に被害が及んでいます。そう考えると、海外依存というのは、事故のリスクも海外に移転していることだと自覚すべきでしょう。石油を使えばタンカーの座礁問題、天然ガスはガス爆発の危険があります。水力を使えばダムの決壊、原子力を使えば原子力のトラブルがあります。風車は落雷事故で止まってしまいます。それから、環境汚染問題の対策はわが国は世界一のレベルで進んできました。しかし、中国やインドでの環境汚染は極めて深刻な状態です。わが国はそういう国の環境を守るという活動も必要になってくるでしょう。そして今、地球温暖化問題が大きな課題です。
  これらのさまざまな問題にいろいろな形で対策を立てており、どこまで対策を立てれば多くの方に満足していただけるかが一つの大きな課題になっています。

3.エネルギー学

 私は、一つの分野としてエネルギー学を研究しています。エネルギー学の私なりの定義を述べます。「社会の生産活動と人々の生活に利用されているエネルギーについて、政治、経済、社会、資源、環境、技術から総合的に俯瞰し、社会の持続可能な発展を目標にしてエネルギーの側面から諸問題を解決していく学際的な学問である。エネルギー問題について将来を予測しつつ総合的な視点から対策を提案する学問分野を内包しているのも特徴」。今はそれほど大きなエネルギー問題がなくても、これから先、人類において非常に大きな問題が発生する可能性は非常に高くなってきています。将来に向けてどうしたらいいのか、われわれの次の世代、あるいはその次の世代の立場も考えて発展していく学問と私は位置付けています。
  では、どういう領域を考えなくてはいけないかというと、まず「社会のエネルギー消費」の実態を理解します。2番目に「エネルギー利用技術」があります。それから「エネルギー資源」の問題です。次は「エネルギー供給技術・システム」、輸送・貯蔵・転換の技術やシステムがそれに対応します。そして、「エネルギー技術の信頼性・安全性」「エネルギー消費(生産)に伴う環境汚染と地球環境問題」があります。
  従来、エネルギー工学が学問として発展してきて、これは社会活動で使われているエネルギーについて、資源、変換、輸送、貯蔵、消費の一連のプロセスを工学的な側面から総合的に研究する学問でした。すなわち、どちらかというと技術的側面を中心とした学問体系として成り立っていましたが、エネルギー学にはもう少し文系的な側面が入ってきます。
  エネルギー学は、まずエネルギー政策・計画の支援が一つのミッションだと思います。2番目のミッションは、エネルギー資源・技術選択と科学技術政策の支援です。ところがいざやってみると、これは大変な学問になってしまいました。理学、工学、生物科学、社会科学、あらゆるものに関係しており、とてもこれらすべてを網羅して学問をつくることはできません。結局、それぞれのいろいろな学問体系をどのような形で融合あるいは連携するかというところに尽きてしまいます。われわれの能力には限界があり、これらすべてを学んで学問体系をつくることはできないわけです。
  そういう点から考えると、このエネルギー学の方法論としては、問題解決のアプローチ法をいかに自分なりに発想して構築していけるか、すなわちシステム化に対する学問としての発展が考えられます。当然システム化になると数量科学(統計学や推計学)、情報科学(OR手法、複雑系の理論)の研究も必要になります。そういうものを駆使しながら問題解決型の形で解いていく、これが一つの学問の方法論になるかと思います。

3-1.求められる人材.

 私が学生のころは理工学ブームがあり、当時は高度経済成長で専門家(スペシャリスト)を育てるのだという社会の流れがありました。人材はI型の、あるところに非常に深い知識を持った人間を育てるという時代です。
  それがオイルショック以降だんだん変わり、工学分野の融合が必要になり、総合工学という学問が発展した時期がありました。このころはT型人間、一つの専門に深い知識を持つ、その分野でのプロフェッショナルで、かつ幅広い知識もあるということが求められました。そのうち一つの専門だけでは駄目で、Π型の二つぐらいの専門分野があり、広く物事を理解している人材が求められました。
  ところが2000年以降、国内外の社会情勢の変化の中で、総合工学と社会・人文科学との融合が理解できる人間が求められています。これは大阪大学の大学教育支援プログラムに選択されたものなのですが、X型、場合によってはマトリックス型という、いろいろな学問をうまく結び付けながら、社会の問題の解決法を自分の力で考える能力を持った人材が求められています。
  エネルギーを取り巻く教育論議にはいろいろありますが、3年ほど前、岡本先生の『日本を滅ぼす教育論議』を読んで感じたものをピックアップしました。まず、日本では「生きる力」や「豊かな心」など精神論が先行している。非常に抽象的で論理性に欠けている。マネジメントが欠如している。「目標設定」「手段の開発・実施」「実施後の評価」という能力が欧米の人間に比べて劣っている。教育サービスの消費者(学習者、保護者、雇用者)のニーズよりも「もっと何々を学ばせるべきだ」という教える側の発想が中心になっている。それから個性化・多様化を建前としているが、実際は「同じ心による一律」を目指している。日本に昔からある以心伝心です。「言わなくても分かるだろう」という環境が非常に根深く日本社会にはあり、言うと肩身が狭くなるという社会風潮もいまだにあります。

3-2.学際研究・教育に求められるもの

 エネルギー・環境教育で求められるのは学際研究・教育ですが、まず自分の「思い」を「言葉」にする、そして「言葉」を「形(システム化)」する。そしてシステム化したものを「モノ」に、あるいはソフト分野の研究では「最適解」や「理想解」を導くという三つのステップを身に付けさせることが大事です。
  最初の問題設定「思いを言葉に」では、まず目標を立ててそれを実行可能な目的にしなくければなりません。目標は定性的なものですが、目的はなるべく定量的にする必要があります。そうしないと方向がはっきりしません。この作業がはっきりすると、大体作業の半分は終わります。
  そして「言葉を形(システム化)に」が次の「手段の創出」になります。その目的を達成する手段を創出し、理想解を導いていきます。ここはまさに思考演算です。つまり、yを設計解とする要求機能xの関数になります。この思考演算の方程式を自分で頭の中に作るのです。この思考演算は既存理論の応用だけではうまくいきません。つまり、自分の発明的な発想の能力が必要になります。単純な教科書だけでは解けないことがほとんどなので、思考をする訓練が必要になってきます。
  それができたら、問題解決の「形をモノ(最適解・理想解)に」です。具体的な事例に当てはめてそれを解いていくということになります。
  問題設定(What to do)は、まず何をしたいかという具体的な目的を決めることから始まります。ここが非常に大事なのですが、私の学生も「先生、研究は何をしたらいいのでしょう」とよく聞くのです。まず、自分から問題設定をしなくてはいけないのに、こういうことが一番困るのです。その時点でその人は自分で問題意識を持てなくなるのです。
  まず、何をしたいかということを自分の頭で考えさせます。これは畑の中の芋づるを引っ張って芋を掘り出すような形で、頭の中で考えられる目的群を連想ゲームで設定する方法になります。次に、洗い出した目的を最小限の数にまとめます。いろいろ出てきた考えを整理する段階が必要です。ここで気を付けなくてはいけないのが、目的と手段は別だということです。また、目的は定量的に決めることが大切です。日本人は意外と他人に頼ってしまうという面があります。ここをもう少しわれわれ大学でも頑張って教育をしなくてはいけません。
  次は問題解決(How to make or solve)についてですが、要求機能には相互に干渉、あるいはトレードオフが必ずあります。それを理解させなくてはいけません。それから「何が起きているのか」という仮説と「どうやって確証できるか」という立証を繰り返して、創造的なモノはつくられます。そのときあまり大きな問題設定をすると解けないので、実現可能な範囲で問題解決の方法を設定する必要があります。このときに、個々の要素の最適解は自分で考えたシステム全体の最適解とは違うことになることも理解しなくてはいけません。ここにX型の思考能力が要ります。
  そういう点から、今日、学際研究・学際教育は非常に大事な方向にあります。「思いを言葉に」の段階はリサーチ、「言葉を形に」と「形をモノに」の段階はソリューションです。最近、企業でもソリューション部門が非常に増えています。問題は、リサーチ部門は非常に低く見なされているのですが、これから日本ではリサーチできる人が大事です。リサーチ能力を高めていかなくては、創造する新しい能力は出てきません。「創造によって新しいことを実現していくという思い」が生きる力だと考えられます。
  そういう意味で、大学教育は画一化した解法を覚えさせることではないのです。もちろん基礎学力は付けなくてはいけませんが、それらを使って他人と異なる方法で解く楽しみ、喜びを見つけて発展することが大事です。

3-3.エネルギー教育研究会

 科学技術と経済の会という組織の中でエネルギー教育研究会を平成16年から19年まで行いました。目的は、国内外におけるエネルギー教育の支援に関する実態調査を通して、産業界からの支援の在り方について検討しようということです。
  分科会は三つあり、エネルギー教育理念、政策スタンスを分析する分科会、国内外の教科書、教材、e-learningについて調査する分科会、そして第三分科会は企業・NPOの支援・実施体制を調査するというものです。報告書は平成16年と17年の2回出されています。
  日本と欧米各国における国としてのエネルギー教育に取り組む姿勢やカリキュラム・スタンダードについて調査しました。具体的に授業のカリキュラムも併せて調査し、また指導方法とその評価もまとめました。それから教科書・教材、教育施設、指導者等の教育資源、コンテンツについての調査も行いました。そして、エネルギー教育になるとどうしても先生方だけではできない点もあるので、企業やNPOの参加と役割の実態、今後望ましい方向についてもまとめています。

3-4.「総合的な学習」

 総合的な学習は、小中学校は2002年度、高等学校は2003年に始まりました。ただ、学習指導要綱の中に明確な目標や内容が示されていないという課題があり、課題設定の基準もあいまいで、その設定や学習内容も各学校に任されており、そこがあまり総合的学習がうまくいかなかった一つの理由だと思います。
  文部科学省の調査によりますと、そういう中でも多くの先生方がこの総合的学習に努力して、時間配分は、小学校では国際理解、情報、環境、福祉・健康が多く、中学校になると、環境、福祉・健康が比較的多く取り上げられました。
  エネルギー教育の現状のアンケート調査では、中学校の先生からエネルギー教育が重要であるという97%の回答をいただいていますが、実際にはほとんど教育されていません。
  総合的な学習の現状として、まず生徒は全体として肯定的にとらえています。小学生の方が中学生より肯定的です。保護者・担任は生徒に比べて否定的で、保護者の方が担任よりも肯定的でした。それから、小学校の担任の方が中学校よりも肯定的でした。教師の力量と熱意に差があり、指導にばらつきが多いです。それから基礎的・基本的な内容の学習がおろそかになるということが、特に中学校の先生から指摘されていました。それから、教師の負担が非常に大きいという評価がなされています。
  山下先生の著書には、エネルギー教育は総合的な学習にふさわしいと書かれています。その理由は、日々の生活に非常にかかわっている身近なテーマであり、自分たちの生活から地域や日本全体、そして世界を見渡せる要素をエネルギー教育は持っているからです。そして、問題がとらえやすく、比較的明確です。小中高で発達段階に応じて課題設定ができ、また、問題解決的な学習を構成し展開できるという特徴があります。また、追求すべき対象が多岐にわたり、多面的・多角的な見方が必要になるからです。これは学際的な思考能力を高めるということになります。主体的な調査活動、体験活動や実践でそういうものが身に付きます。それから、これからの持続可能な社会の発展に向けてこの教育は取り組まざるを得ない重要な課題です。そして、横断的・総合的な学習課題であるという点で、総合的学習にエネルギー教育が望ましいと指摘されています。
  そうは言っても、先ほどの評価のように、むしろ総合的学習は時間数が減らされて、だんだんこういう教育ができなくなる状況があります。

4.エネルギー教育
4-1.エネルギー教育の流れ

 エネルギー教育は、まずアメリカを中心に発展しています。STS教育(Science, Technology and Society)を1960年代ごろから開始し、その後ヨーロッパにその流れが出てきました。これは科学・技術・社会の相互作用を視野に入れながら、問題意識、正確な知識、そして問題解決の意思決定の能力を養うものです。
  アメリカでは、連邦政府がNEED(National Energy Education Development Project)を1980年に発足し、エネルギー省が財政支援を行って活動が続いています。一方、ウィスコンシン州においてはKEEP(Wisconsin K-12 Energy Education Program)が1995年に環境教育センターを設立して活動を行っています。
  日本では、財団法人日本生産性本部のエネルギー環境教育情報センターが中心になって活動を続けています。資源エネルギー庁は「エネルギー教育実践校」として、これまで数多くの小中高に支援をしています。このように文部科学省ではなく経済産業省から支援がなされているのが実態です。

4-2.日本のエネルギー教育の現状

 エネルギー教育の現状を、中学校とエネルギー教育実践校において調査した結果です。 「関係教科の中での扱い方」は、エネルギー教育実践校では「教科書をさらに充実させている」のが多いのですが、エネルギー教育を特に取り入れていない学校では「教科書に記述されている程度」という結果になっています。また、「教科書程度の扱いの理由」は、エネルギー教育実践校でないところは「時間的な余裕がない」が大半です。それに対して実践校からはは、「適切な補助教材が不十分」という指摘があります。
  「総合的学習での内容」は、エネルギー教育実践校においては56.4%の割合でエネルギー教育が行われていますが、それ以外の普通の中学校ではエネルギー教育は10%程度で、非常に低い位置付けです。「取り上げた具体的テーマ」もやはりエネルギー教育実践校とそれ以外の学校では非常に大きな違いがあり、やはり実態として実践校ではないとなかなかエネルギー教育は行われていないようです。
  実践校のつくば市吾妻中学校では、国語、社会、数学、理科、英語、音楽、美術、保険体育、技術、家庭科、総合のすべての分野でエネルギー教育を実践しています。
  埼玉県蓮田市立蓮田南中学校でもエネルギー教育が盛んに行われており、その結果、それぞれの入学年度で理科が好きになっていく割合を調べると、入ってきた当初は理科が好きと答えるのは40〜50%ぐらいだったのが、2〜3カ月たつと80%以上が理科が好きになるということで、エネルギー教育によって理科が好きになっていく実例も出ています。
  日本のエネルギー教育の実情をまとめると、学習方法としてはエネルギー教育は重要だと多くの中学校で回答しています。それは今のカリキュラムの中で行っている程度で、あえて新たに作ることはないということです。実際には、教師の講義とインターネットによる調べ学習が中心です。それから、実験・実習・見学などの体験的な学習、討論やロールプレイを通した判断力の育成や合意形成の学習はほとんどありません。
  教師自身がやや問題解決的な学習経験が少ない、そして、エネルギー・環境教育に対する知識が足りません。
  エネルギー教育の学習成果は大学入学試験に反映されないので、学習意欲は低いということです。そして、資源エネルギー庁等の支援による支援助成と企業などの出前長業に頼っています。
  日本の教科書や教材を調べると、理科はエネルギーの科学概念、社会科はエネルギー問題にかかわる記述があり、それも非常に断片的で、量は非常に少ないです。その中身から十分な認識が持てる内容ではありません。
  社会科のエネルギー問題は、地球環境問題の一部として記述されています。持続可能な開発や国際関係的な視点からの記述がありません。それから、記述が原子力発電に偏っていて、やや批判的な記述が多いです。また理科の記述は、エネルギー問題や日常生活とのかかわりが少なく、問題解決や実践活動とはかなり結び付きにくい内容です。社会科と理科に共通するのは、学習の仕方よりも単に知識を羅列するだけに終わっていることです。

4-3.北欧におけるエネルギー教育

 私が実際に視察に行ったフィンランドとスウェーデンでは、それぞれの教科書でエネルギーの問題を丁寧に扱っています。記述量も非常に多いです。それから総合的な観点を重視し、強化の壁を設けずに科学的・社会的な多様な観点から扱っています。事実や知識、さまざまな見方や見解を提示することを基本とし、判断は学習者に委ねるという姿勢を貫いています。原子力発電には中立性を貫いており、その分、詳しい知識やさまざまな立場を提示しています。
  それから課題に対する調査や議論などの活動を具体的に示して、端に知識の習得にとどまらず、エネルギー問題解決に対するリテラシーを身に付けさせることに重点を置いています。私はびっくりしたのですが、スウェーデンの中学の理科の教科書には式が1個もないのです。日本の理科の教科書は法則や式ばかりが出てくるのですが。教育方法が全然違うということです。私はスウェーデンに1年半ほどいたので少しはスウェーデン語が分かるのですが、読んでいて何となく楽しいです。図も分かりやすいし、写真もあって、その点が日本とは随分違うという印象を受けました。
  今はヨーロッパ全体がそうですが、Education for sustainable development(ESD)というユネスコの教育方針にのっとって教育が行われています。必ずしもエネルギー教育だけに特化しているのではなくて、持続可能な発展を軸にそういう社会に向けた内容を子どもたちに指導しています。

(1)スウェーデン

 スウェーデンでは、地方自治体が裁量権を持っています。校長、教員、生徒に合わせて独自のカリキュラム・シラバス、教育計画を作成しています。そして、Goal based systemです。目標とガイドラインを基本とした教育方針は国が作ります。目標到達のための具体的方法はすべて教師に委ねられており、国は一切そこに介入しません。ですから、裁量権が非常に先生方にあります。そして、持続可能な開発(ESD)が国家戦略となっており、それに基づいて教育も行われています。いろいろ見ていると、ややホリスティックな教育が非常に強く行われているようです。
  そして、まさに学際的なアプローチを取り、問題解決型で批判的な考え方や能力を高めています。私は理科教育の現場で中学校の教育法を見てきたのですが、温暖化に対する教育をしていて、生徒が常に手を挙げるのです。一方的な教育ではなくて、先生は生徒のディスカッションをサポートする役割をします。これは問題意識をすべて自分で設定するという考えに基づいています。すべての先生がやっているわけではないそうですが、信念でやっている先生方の数が増えてきているそうです。
  このThe Missionというテーマの学習方法には狙いがありまして、生態学的要素をまず学ばせます。そして社会構造、人生の意味、持続可能性ということを生徒に身に付けさせます。この基本的な理念をつかめば子どもは自然に成長するもので、知識を詰め込まなくても自分で必要な知識は獲得していきますと言っていました。
  また、ドリームハウスの環境教育では、まず電化製品に囲まれた生活を実感させて、エネルギーに依存している社会を理解させます。また電気、熱などのエネルギー変換や回路の原理を理解させます。子どもたちは、家庭から地域、国へと視野を広げ、そして持続可能な社会に必要なインフラストラクチャー、世界における自国の位置付けを理解していきます。

(2)フィンランド

 フィンランドのオルキルオトにある原子力発電所、高レベル放射性廃棄物処分場を見学してきました。基本はそのまま見せて、自分たちで評価はせず、評価は住民や生徒がするものだそうです。中には、これが危険だと思う人や実際に見たら結構安全にやっているなと理解する人もいます。そのまま現物を見せて、判断はそれぞれに委ねればいいということです。高レベル放射性廃棄物は直接処分ですから、燃料集合体をキャスクに入れて処分します。この処分の状態を実際に見せて、住民は結果として受け入れています。
  実サイト見学によって透明性を重視しています。計画から建設までのすべてを情報を開示しています。地元での教育は組織的には行いません。模型ではなく実物を見せることで理解が深まります。そして事実のみ伝えます。判断は各個人に任せます。質問に対しては必ず答えてあげます。そして、講師教育講習会を実施しています。

4-4.企業・NPOの役割

 企業による教育、出前授業もいろいろ課題があります。教師との対話が十分に取れていない、子ども向けのいい教科書・教材がよく分からない、教師の立場は未経験で、教え方が分からない、企業のPR活動になっている恐れがある、継続性に欠けるという問題を、今後どのようにそれぞれの地域で解決していくかが大事です。
  欧米では、基本は教育の責任は教育現場にあるという考え方なのです。日本で実施されている出前授業はなく、企業とNPOに所属する専門家は間接的に教師を支援しています。企業は資金援助と資料提供をしています。アメリカでは特に資金援助はいろいろ行われていますが、欧州では直接的な資金援助は行われていません。
  NPOの支援内容には、意欲のある教師に対する資料等の提供、ベストプラクティス等の事例紹介、情報交換の場の提供があります。

Copyright(c) The Society for Environment & Energy in Fukui Prefecture All Rights Reserved.