先生のためのセミナーレポート 要旨


テーマ: 環境・エネルギー教育セミナー
開催日時: 平成19年11月30日(金)
場  所: 福井商工会議所ビル「コンベンションホール」(福井市西木田2-8-1)
主  催: 中部経済産業局 電力・ガス事業北陸支局
後  援: 福井県教育委員会・石川県教育委員会・富山県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会

パネルディスカッション
テーマ: 「エネルギー・環境教育実践のためのカリキュラムづくり」

コーディネーター:

京都教育大学 教授 山下 宏文 氏
パネラー: 新井 光雄 氏
吉田  正 氏(美浜東小学校 校長)
塚田 勝利 氏(福井大学教育地域科学部附属中学校 教諭)
コーディネーター
プロフィール:
1982年、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。
東京都の公立小学校教諭を経て、1996年に京都教育大学教育学部助教授、2002年より現職。
2002年、東京大学大学院農学生命科学研究科にて文部科学省内地研究員。
日本エネルギー環境教育学会副会長、日本教材学会常任理事。
専門は、環境教育、社会科教育。
主な著書に『学校の中での環境教育』『「資源・エネルギー・環境」学習の基礎・基本』『エネルギー環境教育の理論と実践』(共編著・国土社)など。

パネラー
プロフィール:

美浜東小学校校長
吉田 正 氏
2007年度より福井県美浜町内の全小中学校に導入された「エネルギー環境教育プログラム」を作成し、推進している「美浜町エネルギー環境教育推進委員会」の委員長を務める。

福井大学教育地域科学部附属中学校教諭
塚田 勝利 氏
日本原子力文化振興財団が平成18年度に募集した「第1回原子力・エネルギー・環境等に関する『指導計画』」に応募され、優秀委員会賞を受賞(受賞時は、越前市武生第二中学校勤務)。

(要旨)

(山下) 最初に私から日本の動きや外国の動向について簡単に紹介をさせていただきます。その後、パネリストの先生方から、まず美浜町のエネルギー環境教育への取り組みと、指導計画で賞を取られたカリキュラムについて紹介いただきます。その後、それに基づいて、会場の皆さまからも質問やご意見等を受けながら、討論を進めてまいりたいと思います。

「エネルギー環境教育実践のためのカリキュラムづくり」

山下 宏文 氏(京都教育大学教育学部 教授)

 では、まず私からエネルギー環境教育実践のためのカリキュラムづくりに関して、日本と外国についての情報を少し提供させていただきます。ここでは、エネルギー環境教育のとらえ方と、フランスとアメリカのエネルギー環境教育のカリキュラム例をお話しして、これから私たちがカリキュラムや教材を作っていくときにはどんな点をポイントとしてとらえていくといいのかということについてお話をしたいと思います。
  まず、エネルギー環境教育は、エネルギー問題や地球温暖化に対応できる環境教育の在り方として登場しています。逆に言えば、今までの教育では地球温暖化やエネルギーの問題に対応できていなかったので、対応できる形の教育が求められているのだということです。これはエネルギー教育、資源・エネルギー教育、環境・エネルギー教育、エネルギー・環境教育、エネルギー環境教育など、いろいろな言われ方をしていますが、求められていることは同じで、エネルギーに関することを中心として進めていく環境教育ととらえたいと思います。
  このことについては、昨年2月の中教審教育課程部会の審議経過報告でも「環境教育については、社会科や理科、生活科、家庭科、技術・家庭科、総合的な学習の時間等の学校の教育活動全体を通じて取り組まれているところであるが、特に持続可能な社会の構築が強く求められている状況も踏まえ、エネルギー・環境問題という観点を含め、さらなる充実が必要である」と触れられています。今までの環境教育の進め方ではエネルギーという点が非常に弱かったので、もう少しきちんと扱っていかなければいけないということです。
  つい最近出た審議のまとめでは「エネルギー・環境問題は、人類の将来の生存と繁栄にとってはもちろんのこと、資源の乏しいわが国にとって重要な課題である。21世紀に生きる子供たちに環境や自然と人間とのかかわり、環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式とのかかわりなどについて理解を深めさせ、環境の保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成していくことが求められている。また、エネルギー・環境問題は、その原因においても、科学技術と深くかかわっており、その意味で、科学的なものの見方や考え方を持たなければならないことを学ぶことは重要である」と述べられています。ここでも、エネルギー・環境問題をもう少しきちんと扱っていかなければいけないのだということが述べられているわけです。
  エネルギー環境教育については、エネルギー環境教育情報センターが「エネルギー教育ガイドライン」というものを作成しています。そこでは、「関心・意欲・態度」「知識・理解」「思考・判断」「技能・表現」「行動・実践」という五つの観点から目標を設定し、関心・意欲・態度では「エネルギー・環境にかかわる問題に対して、自らの課題として関心を持ち、それらの問題を進んで日常生活と関連づけて考え、解決に向けて行動しようとする」。知識・理解は「エネルギー・環境とそれらをめぐる問題について社会、経済、科学・技術等の多面的な観点から理解し、それらに関する基礎的な知識を身に付ける」。思考・判断については「経済発展、環境保全とエネルギーとのかかわりを、科学的、長期的、そして地球的、地域的な視野・視点から総合的かつ多角的に考察することができる。また、それらを踏まえて持続可能な社会を構築するための手立てやそれに寄与する行動などを日常生活と関連づけて具体的に考察することができる」。技能・表現では「エネルギー・環境やそれらをめぐる問題に関するさまざまな資料・情報の収集、処理、活用、またエネルギー・環境に関する実験・調査などを適切行うことができる。また、これら能力を活用し、エネルギー・環境について自らの考えを導き出して責任ある意見を発表することができる」。行動・実践については「家庭・学校・地域社会等の中でエネルギーの有効利用や環境保全に向けた主体的な取組みを継続的に実践することができる」となっています。
  日本でもこういうガイドライン等を作成してエネルギー教育が始まっているのですが、外国における状況を少しお話しします。まずフランスでは、国民教育省に行って今のエネルギー教育はどうなっているかと聞きますと、きちんと資料を提示してくれます。その資料に基づくと、小学校では主に科学という教科を中心に、使用可能なエネルギー源の簡単な例示や、エネルギー消費と節約、太陽光発電暖房器についての概念などを押さえる。中学校では生命科学・地球科学という教科やテクノロジー、総合的テーマという学習の中で扱っていきたいということでした。総合的テーマというのは日本でいう「総合的な学習の時間」に近いような学習なのですが、必修を設けてエネルギーの問題を扱っていくということでした。高校では、同じく生命科学・地球科学という科目と、地理・歴史、公民・法律・社会というように、社会的なものが入ってきます。フランスで聞くと、エネルギーの問題は地理、政治の地政学が基本でなければならない、その基本としてやはり科学的な見方ができるようにしておかなければいけないのだということでした。
2005年から始まった総合的テーマの学習の目的としては、「生徒が中学校教育を修了したときに、自分の生きている世界を総括的にイメージできるようになっていることが求められる。このイメージは、個人にとっても社会にとっても必要な問題を学習することによって得られる。共通な知識の習得という目的を明確にすることで、生徒は学習科目間の密接な関係を認識でき、また総合的な視点から現代社会の現実を分析することができるようになるのである」とされています。まさに今の教育改革で述べられていることではないでしょうか。
  そして、必修として「エネルギー」「環境と持続可能な発展」「気象学と気候学」「科学的視点からの世界の統計的考察様式」「健康・安全」という五つの課題が掲げられています。この順番にも意味があるようで、あえてエネルギーを1番に持ってきているということでした。その理由は、エネルギーは日常生活と深くかかわってきており、エネルギーやエネルギー資源にかかわる問題は公平な考えを必要とする重要な社会的課題であること、地球の未来のために世界的規模でのアプローチが必要であることで、「将来、選択しなければならないときに、市民として見識のある議論ができるように、この分野での知識を持つことが望ましい」とされています。
  次に、アメリカでは科学教育、技術教育という観点を強く打ち出して、エネルギー教育を進めています。ここでは、KEEPというNPOが開発したエネルギー環境教育のプログラムとして、ウィスコンシン州の「KEEPカリキュラム」をご紹介します。ここでは、「私たちはエネルギーを必要とする」「エネルギー資源の開発」「エネルギー資源開発の効果」「エネルギー資源利用の管理」という四つのメインテーマを設け、12のサブテーマ、そして102のエネルギー概念を示しています。そして、それぞれのテーマについて、幼稚園から小学校2年までではこういった活動、3年から5年、6年から8年、9年から12年、そして全体という形で示しています。
  こういったカリキュラム等も参考にしつつ、これからエネルギー環境教育を進めていくために、「生活に密着した形の課題解決学習や問題解決型の学習を行っていく」「社会システムの観点から多面的・総合的にとらえていく」「発達段階に即した系統性・発展性を重視する」「エネルギー利用に対する価値判断ができるようにする」「日常生活における実践活動に結び付くようにする」の5点をポイントとしてカリキュラムや教材を作っていかなければならないと考えています。

(山下) これからエネルギー環境教育を進めていくためには、どうしてもカリキュラムづくり、カリキュラム開発が求められますので、これから既にカリキュラムづくりに取り組んでこられた事例を簡単にご報告いただきたいと思います。最初に美浜町の取り組みについて吉田さんからご紹介いただき、次に一つのテーマに沿ったカリキュラムをどうとらえていくのかということで、塚田さんから報告をお願いいたします。

「美浜町における『エネルギー環境教育』の取り組み」

吉田 正 氏(美浜東小学校 校長)

 美浜町には、小学校が7校、中学校が1校あり、児童生徒数は850人余りです。町の人口が約1万1000人ですので、どの学校も小さな規模です。
  昭和45年、関西電力の原子力、美浜発電所の第1号機が完成しました。この年に行われました大阪での万国博覧会に美浜発電所から電気が送られたことは、当時のニュースにもなっています。以後、美浜町では第2号機、第3号機と建設が進められていますが、美浜には東海、敦賀に次いで国内で3番目に原子の火がともされたわけです。
  美浜町は、以後この原子力と共生する中で町政の振興を進めてきています。平成18年度から10年間の振興計画も発表されまして、もう既に2年目に入っていますが、この中で、小中学校の総合学習でエネルギー環境教育を進めていくことが具体的に示されました。美浜町は、山、海、湖といった自然環境に恵まれた町です。この自然環境の中で、地域資源を有効に利用し、つまり原子力発電所や関連研究機関等の活用を図りまして、環境教育、またはエネルギー教育を行っていくということが打ち出されたのです。
  一方、経済発展による便利で豊かな社会がもたらした地球環境の破壊という問題が現代にはあります。そして、地球温暖化の急速な進行と、エネルギー資源の枯渇問題等が世界的に取り上げられています。近い将来、この問題と直面するのは、今の学校で学ぶ子供たちです。私たちは、一人一人がこの問題を自分の問題として主体的に対処していくことが求められているわけです。
  そういう情勢の中で、美浜町ではエネルギー環境教育を実施していこうということで、平成18年に美浜町の教育委員会に「美浜町エネルギー環境教育」推進委員会が設置されました。ここには各小中学校の代表が参加し、福井大学の伊佐教授にもいろいろとアドバイスをいただいています。また、アドバイザーとして関電をはじめ、研究機関のご協力もいただいているところです。
  本町のエネルギー環境教育の基本的な考え方は、エネルギー問題、環境問題という喫緊の課題について、自ら考え、主体的に判断し、よりよく行動することのできる児童・生徒を育てていこう、そのために原子力発電所や関連機関・研究所が立地する地域の特性を生かし、特色ある学校教育の一環として「エネルギー環境教育」を進めていこうというものです。初年度の平成18年度につきましては、カリキュラムの作成が本委員会の最大の仕事となりました。この作成に当たっては、「生活科」「総合的な学習の時間」に位置付けて実施するなど、五つの点に留意しています。

「中学校社会科学習における資源・エネルギー教育の一つの試み」

塚田 勝利 氏(福井大学教育地域科学部附属中学校 教諭)

 中学校の社会科での実践として、選択社会科と総合的な学習をタイアップさせて原子力問題とどう向き合うかというテーマで単元を作ってみましたので、それについてご報告をさせていただきます。原子力については、例えば原子力の技術者、地元の住民、環境保護団体、地元の経済団体等いろいろな立場から、地域の経済的なメリット、合意形成や調整という政治的な視点などを絡めながら考えていく計画を立てました。選択社会科と総合的な学習を活用すると、特にこれをしなければならないと学習内容が決まっているわけではありませんから、進度にとらわれないということや、まとまった時間を確保できるというメリットがあります。
  中学3年生社会科の公民的分野では、最後に「国際問題と地球市民」という単元があり、資源・エネルギー問題、地球環境問題、人口・食料、子供の問題、主に南北問題などを扱っていますので、地球全体の視点で「地球市民」「人類益」をキーワードに、資源・エネルギー問題、特に原子力問題を中心に単元展開を図ってみました。
  最初の導入は、「もし世界が100人の村だったら」を活用して、きれいで安全な水が飲めない人は17人、20人が世界のエネルギーの80%を使い、80人が残りの20%を消費するというように、世界にはいろいろな国があるということを紹介しました。この後、資源・エネルギー問題を中心に、教科書や簡単な資料を使って知識の確認をしました。その上で「原子力発電の割合を高めるべきか」のテーマを提示しました。まずは、自分の考えを整理するために、個人の思考回路図を作成しました。それぞれが個人思考回路をもとに、隣同士で自分の考えを紹介し合い、その後、ペアで一つの集団思考回路図を作成していくことにしました。それによって、どんな事実や資料に基づいて自分の考えを展開しているのかということや、矛盾しているところなどがはっきりします。そして、ほかの人の考えとの違いに気づき、新たな興味関心や根拠としている事実への疑問などを基にして、この後の調査活動を展開していきたいと考えました。
  今後、調査活動を行ってレポートにまとめるという計画になっているのですが、11月に始めたばかりで、まだ実践をしていません。 話は変わりますが、3年生の選択社会科でも原子力問題、エネルギー問題を扱って、別の実践を行いました。
これらの実践を総合すると生徒の認識としては、原子力発電は二酸化炭素の排出量を抑える、発電コストを抑えるといったことをメリット、デメリットを安全性、放射性廃棄物の問題、事故・トラブルの報道と捉えているようです。その中で、生徒は事故やトラブルの報道をそのまま受け取ってしまうということ、それから、自分の問題、地域の問題としては考えていないということを感じました。
  現状を踏まえた指導の在り方についてはまだまだ迷っている段階ですが、幾つか考えているのは、根拠としている事実やデータ、資料をはっきりとさせて、本当に事実なのか、事実だとしてもどの程度なのかということをきちんと見ていくということです。それから、そんなに難しいところから始めず、自分とつながるところから学習を展開させたいと考えています。エネルギーというものは見えないのですが、それが自分とつながっているのだということを実感してほしいということです。それから、行動にもつなげていきたいと思うのですが、電気などはなかなか生活に密接しすぎて、行動に至らせるのは難しいという面があると思います。
  物理学者の寺田寅彦氏の言葉に、「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのは易しいが、正当に怖がることはなかなか難しい」というものがあります。これは、原子力問題を考えるとき大切な言葉だと思います。
  社会科においてはいろいろとエネルギー問題を扱う場面があるのですが、例えば1年生では福井県という地域の視点で、2年生では国という視点で、3年生では政治や民主的な物事の決め方、あるいは世界的な視野で考えていくというように、スパイラルなカリキュラムにしていきたいと思っています。

(山下) ありがとうございました。カリキュラムづくりに関しては、エネルギー環境教育全体としてのカリキュラムをどうするのかということと、個々の主題のカリキュラムをどうしていくのかという二つがあって、二つとも重要なのだと思います。
  新井さん、二つの報告を聞いて、何かコメントがあればお願いします。

(新井) 非常に内容の濃いお話をいただきまして、ありがとうございました。

 吉田さんの話ですが、自治体がそういう方向で動きだしたのはやはり画期的なことだと思いました。先日も美浜町の教育委員会がエネルギー教育特別奨励賞を受賞されており、大変素晴らしいと思います。ただ、美浜の場合、これは当然昔からやっていても不思議ではないと思うのですが、どうしたきっかけでこうなったのかというところをちょっとお尋ねしたいと思いました。
  それから、塚田先生のお話は、何か授業は大学でもこうやったらいかがですかと教わったような感じで、大変興味深く伺わせていただきました。エネルギー教育というとどちらかというと理科系の先生が担当されて実験や発電がどうのという話をすることが多いのですが、やはり社会科からアプローチも大変いいと思いますし、先ほどエネルギー教育は総合学習にぴったりだという話もありましたが、いろいろな教科につながるものですので、非常にいいのではないかという印象を持ちました。

(山下) 今、新井さんから美浜町としてこのような取り組みを始めたきっかけについてのご質問がありましたので、それについて吉田さんからお願いします。

(吉田) 先ほど説明しましたように、美浜町に原子力が立地してから40年近くたちます。この間、エネルギー環境教育については、やはり原子力賛成、反対という意見もございまして、行政や学校ではあまり触れることができない状況だったのではないかと考えています。はっきり言いますと、学校の教育現場ではタブー視されていたのではないかと思っています。
  きっかけとしては、先ほど菅浜小学校と美浜中学校から発表がありましたが、実は文科省が原子力に対する国民の理解増進のための施策として、先進的原子力教育取り組みの全国的普及という事業を行っておりまして、全国で美浜町が茨城県の大洗町とともに指定地域となったことが一番大きいと思います。これについては町政と非常にかかわりが深く、私たち現場の者はあまり細かく聞いていないのですが、やはり文科省の指定が大きなきっかけになって始まったと言えるのではないでしょうか。

(山下) 加えて、この問題を扱わずにはいられなくなっているということも、念頭に置いておかなければいけないのではないかと思います。
  ここで、私の方から幾つか確認をさせていただきたいと思います。まず、美浜町の場合は小学校から中学校、科学教育全体にかかわるようなカリキュラムということで、塚田先生からは1年から3年まで通した形で今後は考えていきたいというお話がありましたが、カリキュラムづくりの中で一番重要なこと、あるいは気を付けなければならないことについて、教えていただければと思います。

(吉田) 今回この教育が始まったことについては、社会的な要望が非常に大きく、国の施策によるところも大きいのですが、それに加えまして、実は子供たちからの要望も非常に大きかったということも、皆さまにお知らせしたいと思います。5月に本町の5〜6年生と中学1〜3年生にアンケートを実施したところ、エネルギーと環境の問題が大切だと考えている児童は、小学校5〜6年生では90%を超え、中学校3学年ではほぼ90%でした。つまり、10人に9人の子供たちがそう考えているということです。それから、地球温暖化が子供たちの非常に大きな関心事となっているということも分かりました。
  本町のカリキュラムについては、実は山下先生に多大なご指導をいただきながら作成しています。エネルギー環境教育については、私たちにとっては全く新しい分野で、一体何をどう教えていけばいいのか分かりません。エネルギー概念そのものも非常に難しく、どのようにとらえたらいいのかなど、考えだしたら切りがありません。また、非常に専門的な知識も必要ですし、最新の情報も必要です。それをみんなで共有していかなければいけないということで、まず一番の糸口としてカリキュラムの作成に取り掛かったわけです。
  ただし、カリキュラムができたからといっても、それを現実に教えていくのは非常に大変なことで、現場の先生方も不安を持ちながらのスタートとなりました。そこで、関西電力や日本原子力研究開発機構、私たちの町にあります原子力安全システム研究所などに出前授業という形で支援をしていただくという形を織り交ぜまして、私たちも一緒に勉強させていただくということで始まってきたわけです。
  もう一つ、今年度の大きな取り組みとして、今、副読本の作成が進んでいます。年が明けて1月の下旬ぐらいに仕上がる予定で、これについても山下先生に多大なご協力をいただきました。この副読本が、指導していく際に大変役に立つのではないかと思います。

(塚田) 一般的な話に発展していってしまうのですが、やはり今社会から求められている学力は何かということが重要であって、私たちであれば中学校でどういう学力を身に付けさせたいかということを基にして、社会科でどうそれにアプローチしていけるのかというように、大きな枠の中で考えていかなければならないと思っています。そうしなければ、活動や体験はしているけれど、何が身に付いたのかというところが弱くなってしまうと思うのです。私がそんなに系統的にできているかというと非常に寂しい限りなのですが、やはりそういう根本的なところを大切にしていかなくてはいけないと思います。また、授業を進めていく上では、生徒の興味関心を大切にしないと追求が非常に弱くなってしまうので、自分の問題としてどう意欲的に学習させていくかというところを大切にしていきたいと思っています。

(山下) 今、非常に重要な指摘をいただきました。今求められている学力は何なのかということに対応していかなければいけないのではないかということです。求められている学力は何なのかということは、具体的にカリキュラムの目標として表れてくるのだと思います。従って、カリキュラムを作っていく上でも、やはり目標というところを大事にしていかなければならないのではないかと思います。 また、子供の興味関心や実態を踏まえてやっていくということもお二人からご指摘いただきました。さらに、社会の現状、社会の実態と教育がどう結び付いていくかということも関係してくると思います。私はどうも社会が求めているものと、学校が追求しているものの間にちょっとずれがあるのではないかという気がするのですが、いかがでしょうか。

(新井) 非常に難しいご質問で、私にはちょっと答えられそうにないと思うのですが、少し質問をしてもいいですか。やはり小学生、中学生とレベルがいろいろありまして、原子力システムなどは高校に入ってエネルギー不滅の法則などを学ばないとなかなか理解できないと思うのですが、今は中学レベルで分かるものなのでしょうか。それから、例えば燃料電池が非常に注目されていますが、大学生に水の電気分解と反対の現象を起こすのだと言ってもどうも通じていないようなところがありまして、こういう科学知識のレベルはどのようにしておられるのか、教えていただければと思います。

(山下) 塚田先生、いかがですか。

(塚田) 選択社会科で原子力問題を扱ったときには、いろいろな疑問や興味がわいてくるのですが、なかなか答えが見つからない、いろいろな文献に当たるのですが、どれも大人言葉で書いてあったり、科学的にちょっとレベルが高すぎたりということで、私はゲストティーチャーを活用させていただきました。原子力安全システム研究所や原子力研究開発機構の方に来ていただいていろいろな疑問をぶつけると、非常に分かりやすく、具体的な話を聞かせてくださって、それで解決できたというところがありまして、正直な話、その疑問や興味に私自身がどれだけ答えを出せたか、または参考となる資料を紹介できたかというと、自信がありません。

(山下) では、説明さえきちんとできれば、中学生であっても原子力発電や燃料電池の仕組みについても分かるということでしょうか。それとも、誰が説明しても無理だということもあるのでしょうか。

(塚田) 小学生、中学生の現状に合わせた説明をしていただければ、そのテーマに関連するレベルでは理解できるのではないかと思います。もっと深いところというとちょっと難しいと思うのですが。

(山下) やはり子供の発達に合った内容があるだろうということですね。吉田さん、美浜町のカリキュラムにおいては、いわゆる科学的なエネルギー概念や原子力発電の仕組みなどと、社会におけるエネルギー問題をどういう形で結び付けるというか、全体としてどのようにとらえているのでしょうか。

(吉田) 答えになるかどうか分かりませんが、私たちの町では、教職員全員が美浜原子力発電所を見学し、敦賀のもんじゅも見学しようと考えています。実は私も関西電力へ見学へ行きまして、蒸気でどうタービンを回すのかというところもこの年になってやっと理解できたぐらいです。私たちは火が燃えていますと、エネルギーが発生していると分かるのですが、今はコンセントの先は見えませんので、非常に教えるのが難しいのです。
  特にこのカリキュラムを作るときに気を付けたことは、小学校の1〜2年生では、遊びを中心に子供たちの体験活動の中でエネルギーを感じさせようということです。日なたが暖かいということを実際に感じてもらう。そして、3年生になって初めて「エネルギーって何?」という単元が組み入れられまして、5年生でエネルギーのベストミックスなどを考え、6年生では地球温暖化、中学校では1年生で実際に発電所等の見学を行い、3年生ではプルサーマル、高速増殖炉まで勉強するというカリキュラムになっています。
  また、今年度やってみた中で、非常に理解が難しいということであれば、修正をしながら取り組んでいくべきだと思っています。とにかくエネルギーという概念は非常に難しいので、子供たちが分かるような教材をどう作っていくのか。出前授業で知識を教えていただくということとは別に、私たちは教師ですので、プロとして子供たちにどう考えさせていくのか、これを通して何を学んでもらうのかというところで力を付けていかなければいけないと思っています。

(山下) ここで、会場の方々から質問やご意見等をお聞きしたいと思います。何かある方は挙手をお願いします。

(Q1) 先ほどの副読本とは、先生のためのものですか。

(吉田) 児童・生徒のために作っているのですが、それを教師も活用していくということです。

(Q2) 先ほど塚田先生が言われるように、中学生なりの理解、小学生なりの理解ということで、原子力発電、例えば核分裂や核融合についても、かみ砕きながら子供たちにイメージを持たせるということはできるのではないかと思います。ただ、正確にかみ砕いているかどうかという判断を教員ができるかというと、大変難しい問題になると思うのです。出前授業で企業の方にお願いしますと、あいまいにはできないので正確に表現しようとされて、やはり小学生には理解が難しくなってくるのですが、例えば原子力も火力と一緒で、タービンを回しているところが原子力で、そこがホッカイロのような感じで熱くなるのだというように例えることについて、新井先生はどのように思われますか。

(新井) 私が教えているのは文学部なものですから、科学的な知識は少ないのでしょうか、やはり毎年戸惑いつつやっています。私の場合は、例えば三つの連続する整数の和は3で割り切れますが、それを厳密に証明しようとすると、非常に大変です。でも、単純なやり方でも納得できると思うのです。だから、それと同じ程度に分かればいいのではないかと思っています。つまりある種の納得をさせてやりたいと考えているわけです。
  例えば原子力工学を専攻している先生も、専門分野がありますから、あえて言えば3分の1程度分かるか分からないかだろうと言われてます。私は新聞記者をもう何十年とやっていますが、どのぐらい分かっているかというと、5%か、せいぜい1割程度だと思います。だから、子供さんたちも「ああ、そうか」と思えるレベルに達していれば、それでいいのではないかと私自身は思っています。

(山下) 先ほど子供の発達段階に応じていくことが大事だということが出てきましたが、その発達段階に合わせたかみ砕き方について、吉田さん、塚田さんからも一言ずつお願いします。

(吉田) 私はこの4月からこの推進委員会にかかわっているのですが、それまでエネルギーについて考えてみたことはないと言った方が正しく、その中で大変勉強させていただきました。施設を見学していても聞きたいことが山ほど出てくるぐらい、これは私たち大人にとっても難しいことだと思います。しかし、私は40年近くの間、この教育が賛成・反対というイデオロギー的なことから学校で取り上げられてこなかったことによる損失は非常に大きかったのではないかと思っています。本当に小さなことでも、それを知らせて一緒に考えることで、原子力発電にはこういう危険性があるけれど、このように対処しているというようなことが分かってきて、ベストミックスも可能になっていく、それぞれのエネルギーをうまく混ぜ合わせて使っていこう、そして持続可能な社会を構築していこうということにつながると思うのです。
  ですから、やはり小学校の時点からきちんと教えていく、分かりやすくかみ砕いてという話がありましたが、可能なところで教えていくという努力をすることが、私たちには求められているのではないかと思います。

(塚田) あまり理科的に考えたことがないのでずれるかもしれないのですが、例えば社会科ならば、エネルギー問題を1年生から3年生の間で少しずつやっていきますので、かみ砕き方があいまいだからということを恐れて躊躇するのではなく、社会科の中でも1年、2年、3年と学ぶ機会があるし、ほかの教科や生活の中でも学ぶ機会があるのだから、その中でだんだんはっきりとしていけばいいのではないか、その場、その場で恐れずにかみ砕いて伝えていくことが大切なのではないかと思います。

(山下) そのかみ砕き方の系統というか、発展というか、次の段階に行ったときにはもう少し正確に伝えていかないといけないだろうと思います。私もかみ砕き方についてはやはりいろいろな問題があると思っていて、変なかみ砕き方をしておかしなイメージを作ってしまうぐらいなら、むしろしない方がいいと思うときもあるのです。そのときはこういうかみ砕き方をしたけれども、次の段階ではきちんと修正していくという見通しの中で教えていくということが求められるような気もします。やはりこれも教材開発にかかわる大きな課題だろうということが見えてまいりました。
  では、時間もそろそろ迫ってまいりましたので、最後にパネラーの方々から、これからエネルギー環境教育を進めていくに当たってのアドバイスや注意などがあれば、お伺いしたいと思います。

(吉田) たしか10月だったと思うのですが、本校で出前授業をお願いしまして、3年生に「エネルギーって何?」という学習をしていただきました。ちょうど参観日に行ったので、保護者の方にも聞いていただいたのですが、ある女の子がその感想文に、「電気がなくなるとは思わなかった。もしなくなったら困るから、大事に使おうと思います。そういえば、前、お母さんが『使わないのなら部屋の電気を消しなさい』と言っていました。エネルギー学習をして、電気の歴史やいろいろなことが分かって良かったです」と書いています。このように、エネルギーとは大変便利で有用なものであるけれど、例えば学校で有限性を学習する中で、これを節約していこうということで、学習と家庭での具体的な生活を合わせて子供たちは学んでいくのだろうと思っています。
  幸い美浜町は今回、全体としてこの教育を進めることになったのですが、一つ一つのカリキュラムをそれぞれの学校、もしくは先生方が立てていくのは大変困難だろうと思います。ただ、先ほど山下先生が中教審のこれまでの審議のまとめを提示してくださいましたが、持続可能な社会の実現のために、理科では科学技術の面から興味関心を育てていこう、社会科では社会に主体的に参画していく資質や能力を育てていこうという内容が盛り込まれるということです。ですから、持続可能な社会の実現という面では非常に前進したものになっていくのだろうと思います。皆さんにも、将来の持続可能な社会の実現ということをどこかに置いていただきながら、それぞれの授業をしていただくということが、とても大事なことではないかと思います。

(塚田) まず一つは、環境エネルギーについての確かな知識を定着させていかなくてはいけないと思います。社会科に関して言えば、エネルギーの海外依存度や、水力・火力・原子力の発電割合、または省エネルギーの問題や新エネルギーについての確かな知識を定着させていく必要があるということです。それから、エネルギー環境教育を通してどんな能力を身に付けさせたいのかということも、きちんと確かめる必要があるのではないでしょうか。また、やはり難しい問題も絡んでいますから、ゲストティーチャーを活用したり、副読本を充実させるというように、学習環境の工夫、配慮も必要だと思います。

(新井) 今回得た一番重要な言葉は、原子力を議論することがタブーではなくなったという吉田さんの言葉だったように私自身は思います。それから、教育に関しては、エネルギー問題を幅広く考えると、本当に総合教育的な側面が強いということです。『ドン・キホーテ』も読んでみれば風車が出てきますし、マルコ・ポーロの『東方見聞録』にはバクー油田が出てきます。尾崎紅葉の『多情多恨』には電気がついたときの感激が書かれていますし、あるいは村井弦斎の『食道楽』という本は家庭科にぴったりです。日本では明治時代ぐらいまで恒常的な熱源を得ることができず、ガスが導入されて初めて一定の温度が得られて料理が変わったということで、これも結構面白いと思いました。先ほど出た寺田寅彦の『柿の種』には、関東大震災直後に東京が真っ暗になってしまったということで、京はもう電化されていたのが分かるなど、エネルギーという一つの視点を持つと結構面白いということで、理科や社会にとどまらず、国語辺りの分野からもアプローチしてもらえたらと思いました。

(山下) ありがとうございました。最後に私の個人的な感想をお伝えしまして、まとめに変えたいと思います。
今回の討論を通して、私はエネルギー環境教育を今求められている学力の問題ときちんと結び付けていかなければならないだろうと思いました。ご存じのように前回の学力調査では基礎、基本はそこそこあるものの、それを活用する力が足りないということが指摘されました。今、教育が求めているのはその活用する力であり、エネルギー環境教育ではまさにそれを育てていくことができるのだということを一つ考えなければならないでしょう。
  二つ目は、エネルギー環境教育を、カリキュラムに基づく形にしていくことが必要だということです。カリキュラムをゼロから全部作れというと非常に難しいでしょうから、既にあるもの、美浜町が作ったものでも構わないし、外国のカリキュラムなども参考にしながら、つまみ食いではなく、きちんとカリキュラムを意識していく必要があるのではないでしょうか。
  三つ目は、やはり子供の興味関心、実態をよく見極めて、同時に社会の現実、今の社会の課題についてももっと目を向けていかなければならないだろうと非常に感じました。
  福井県はエネルギー供給県として日本の中でも極めて重要な位置付けを持っている地域だと思いますので、ぜひ今度はエネルギー環境教育という点からもトップランナーとして進めていただければ大変ありがたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

 

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