先生のためのセミナーレポート


テーマ: 環境・エネルギー教育セミナー
開催日時: 平成18年11月15日(水) 14:00〜17:00
場  所: 福井商工会議所ビル「コンベンションホール」(福井市)
主  催: 中部経済産業局 電力・ガス事業北陸支局
後  援: 福井県教育委員会、石川県教育委員会、富山県教育委員会
主  管: 福井県環境・エネルギー懇話会
■基調講演
テーマ: 「エネルギー・環境教育の教育的意義」
講 師: 広島大学大学院 
    教授   角屋  重樹 氏
講師プロフィール: 広島大学大学院教育学研究科教授
1949年、三重県生まれ。
広島大学教育学部高等学校教員養成課程卒業。
広島大学大学院教育学研究科教科教育学(理科教育)専攻博士課程にて単位取得。
宮崎大学教育学部助教授、文部省初等中等教育局教科調査官などを経て、 1999年に広島大学教育学部教授、2001年より現職。
平成14年度〜平成17年度には広島大学附属福山中・高等学校校長を併任。
著書に「エネルギー環境教育の理論と実践」(国土社)、「理科の学ばせ方・教え方事典」(教育出版)など多数。
(要旨)
 現在、小学校理科、中学校理科、高等学校理科の改善の方向として非常に大きな指針が出され、学習指導要領が改訂に向かっています。その改訂の指針として大体7項目挙がっているのですが、そのうちの2項目に「科学的な概念の理解など、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着」というのがあります。その中の4本の柱とされているのが、「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」などです。
  つまり、本セミナーのテーマである「エネルギー」ということが理科の教育の中で非常に重要な柱になっているということですが、私は「エネルギー」とともに、エネルギー環境教育の実践が大事だと思っていますので、表題に「実践」という言葉を入れてあります。

1.エネルギー環境教育の実践例
  福井県が来年、全小理の大会をしますが、今までの大会の中で、奈良県の平群東小学校と今治市立常盤小学校が、すでに「エネルギー」「環境」を柱として教材開発、教育課程の開発を行っていますので、それについてまずお話しします。
  まず、平群東小学校ですが、ここは「自然・環境・エネルギー」ということで、低学年では「おもちゃづくりを楽しみながら、それらの動きを感じる」、3年生では「理科工作をとおして電気・熱・光エネルギーを感じる」、4年生では「理科実験工作をとおして、電気や熱、光など運動エネルギーを感じる」というカリキュラムを作りました。また、5年生は、「水・風の力で電気を作るなど、理科の物づくりをとおして、位置、運動、電気、光エネルギーの関連性や自然エネルギーの有用性を実感する」、6年生は、「さまざまな方法で電気を作る物づくりをとおしてエネルギーの変換や効率を実感させる」というカリキュラムです。
  また、今治の常磐小学校で行われたのは、「やさしさを育む理科学習」という形での開発です。その内容は、1・2年生は「動くおもちゃを作りながら、動きのメカニズムを感じられるようにしよう」、3年生は「長い回路を作って、電気エネルギーの素晴らしさを感じる」です。そして、電気をエネルギーという側面からもう少し考え直そうということで、廊下いっぱいに長い銅線を引っ張り電気をつけました。抵抗が入るので少し暗くなるのですが、つなげば瞬時に光るという面白さがあります。
  また、4年生は、ポンポン船や炭電池を作ってエネルギーを感じたり、発生させたりしました。この中でヒットだったのは、このポンポン船です。九つのポンポン船を作り、いちばんいい動きをするポンポン船を、子供たちが発明していったのです。炭電池とは炭を使った電池で、それを使って実際に電気を発生させたわけです。また、5年生では、水の力で電気を作る活動をとおして、水の力が電気エネルギーに変わるというものをやりました。6年生は環境問題を考えることをとおして、新エネルギー、水素と酸素を使って自動車を走らせるということをやりました。

2.エネルギーや環境の教育的価値
  次に、エネルギーや環境の教育的価値ということで、三つほど申し上げたいと思います。
一つは、「感性」です。美しさや偉大さということです。常磐小3年の銅線を使った学習では、パッとつけたらすぐ光るという素晴らしさがあります。これにより感性が育成されるのではないか。また、そのエネルギーの学習の中に月、太陽、川、植物の美しさというものを入れたら、さらにいっそう美しいものを美しいと感じる感性が育つのではないかというわけです。
  2番めは、理性に基づく感性ということです。つまり、感性には、美しいとか素晴らしいだけではなく、考えるということも必要なのです。それは四つぐらいに整理できます。一つ、感性を感じるには、つくり、働きの美しさがあります。これはある面、人間の体もそうですね。食べて全部出すというメカニズムがきれいに整理されているのが消化器系あるいは循環器系なのです。2番めは、その働きの美しさ。つまり、仕組みがそれぞれうまく収められているところに、機能の美しさがあるということです。3番めは、いろいろな現象は簡単な式で表示できるということで、これも美しさ、感性です。例えば小学校5年生でやっている「てこの働き」がそうです。つまり、「うでの長さ×重さ」で、両辺が釣り合うときれいに釣り合うということです。4番めが、統一による美しさです。例えば、小学校6年生になりますと、「電気の性質と磁石の性質」というものがあります。小学校3年生で電気と磁石は全く違った現象として扱われるのですが、6年生では統合するわけです。そういうものも理性に基づく感性ではないかというわけです。
  そして、そのような理性に基づく感性を育成するためには、二つの指導方法があると思います。一つは、植物や動物にかかわるときに、見通しを持って体験させるということです。つまり、直接的な働きかけがこれから非常に大事になるだろうということです。もう一つは、次の教育課程で多分大きく出てくると思うのですが、言語環境です。つまり、言語が感性を育むわけです。今、子供たちがなかなか感性的な言葉が出ない、あるいは感性的な視点が育たないというのは、ある面では大人社会が言語の大切さを忘れているのです。
  3番めは感性豊かな環境の整備です。旭川市立北都中学校で私は驚きました。廊下に本物の絵画を全部配列したのです。初めはいたずらされるのを覚悟で、1枚を校長室前の廊下に張って子供のようすを見たところ、子供たちはそれを見るようになったというのです。それではということで、2週間めに2枚めを張りつけ、ついには廊下いっぱいに本物の絵画を配列するようになり、子供の荒れる態度がだんだん収まってきたというのです。
  4番めは「飼育、栽培から他者とのかかわり方を学ぶ」ということです。今、理科や生活科で取り入れている飼育や栽培は他者とのかかわりが抜けているような気がします。植物を育てるときは、植物に対して相手の立場で考えるということも大事です。
  次に、理性と感性を育むということで、三つお話ししたいと思います。一つは、飼育、栽培に代表されるように、他者の視点から自己を見つめ直すということ、あるいはそのような機会を作ってやるということです。
第2に、いろいろな側面から判断する必要がある機会を与えること。例えば小学校6年生の電流と電磁石の学習では、電磁石をパワーアップをするには、巻き数を多くする、乾電池の数を多くする、銅線の太さを多くするなどいろいろな方法があります。いろいろな側面から実験をし、総合的に判断するというところから多側面から判断できる力が培われるのではないのでしょうか。
  3番めは「未来を見通した判断」ということです。例えば天気予報です。予想に基づいて自分は傘を持っていかなくてはいけないとか、明日どうしなければいけないということを判断させるのです。

3.小・中学校の各学年におけるエネルギー教育の意義
  ここでは、ソニーの研修会で先生がたと一緒に作り上げたものをご紹介しましょう。小学校でエネルギーを実感するということは、エネルギーの働きと、その変換・保存を理解するということです。中学校の場合は、それが量的な扱いとなり、数式に代表できる量の扱いが中心となります。
  具体的に小学校の低学年でのエネルギーの扱い方としては、エネルギーを生み出すには働きかけが必要だということを実感してもらいます。教材観は、どうしても無から有を生み出すことはできないということを体感してもらうということです。例えば動くおもちゃであれば、ゴムを実際に巻いて走らせる。つまり、巻くという操作が要るということを実感させるのです。
  また、3年生では、エネルギーは光や熱となって働くということを体感させるために、回路の学習があります。回路が成立すれば電気がつくわけですが、これをエネルギーという側面から見ると、光るということは、電気のエネルギーが熱、あるいは光に変換したということです。このように、今までの学習をエネルギーという側面から解釈し直すことによって教材解釈が広がってくるのです。この教材観としては、エネルギーには、運動、位置、熱、光、電磁気、質量などがある、あるいは、自分の意思によって乾電池のエネルギーをコントロールできるようにするということです。
  また、4年生では、エネルギーは別のエネルギーに変換されるということを体感します。光電池というのは光が電気に変わるということです。あるいは、電池のエネルギーはいずれなくなるが、光のエネルギーは光を当てる限りにおいてはなくならないということから、日光から電気、電気からまた光、動力という形に変わる相互の変換を感じ取ります。この教材観としては、エネルギーは変換されて別のエネルギーに変わるということ。そして、それぞれのエネルギーは固有の性質を持っているということです。
  今度は5年生です。「エネルギーはコントロールできるということが分かる」ということ。あるいは、「その要因を制御し、整理しながら考えることで、多面的な見方ができるようにする」ということで、これは、ふりこという形で学習します。ふりこの現象というのは、位置のエネルギーから運動のエネルギーへの変換と言われます。そういう見方ができると同時に、変数制御という形で扱うことができるということです。あるいは、流れる水もエネルギーとしてとらえることで、「力学的エネルギーの総量は質量と速さによって制御される」ことを感じ取ります。中学校に行くと実際に式の変換が出てきますが、小学校ではそれを感覚的に体得させるということです。また、「エネルギーを制御すれば、働きを制御させることができる」ということも学びます。
  今度は6年生です。「働くものの構造を工夫すれば、エネルギーの効率性をよりよくすることができる」ということ、「エネルギーは別のエネルギーと相互に変換することができる」ということで、電流と電磁石を念頭に学習してもらいます。それから、「エネルギーはさまざまな形態に変化しながらも、保存されている」というものが体感できるのではないでしょうか。
  次、中学校1年生は、力の働きなど、現行の指導要領にないものを、総合的学習の時間や発展の問題として今の教育課程に入れるように提案しています。力の働き、圧力、パスカルの原理などを入れると「エネルギーは別の状態でとらえることができる」ということで、1年生の教材が膨らんでいくのではないかというわけです。
  今度は2年生です。特に、中学校の代表的なものとして、「エネルギーは量的に表すことができる」ということがあります。つまり、電流や熱量という考え方を入れることで、初めて中学校の特有性が出てくるのではないかということです。ちなみにこれも、現在は指導要領の中に入っておりませんので、発展の問題として入れることを提案したわけです。
  次に3年生です。今度は、「エネルギーとは仕事をする能力である」と。これは理科的な一つの表現なのですが、仕事をする能力としてのエネルギーを規定する。それから、「エネルギーは幾つかに分類でき、変換できる」ということです。それから、限られた系の中でエネルギーは保存されているという、エネルギーの保存則を扱ってはどうかということです。これは、高等学校でさらに量的に扱って、エネルギーの保存という形にいきます。
  この教材観は、「すべての現象はエネルギーで説明することができる」ということです。これは少し高度な内容かもしれません。つまり、エネルギーという側面から次の教育課程を全部整理しようということで、最終的に帰着させたのは、「すべての現象はエネルギー」という閉じた系の中において全部まとめようということです。
  以上、私たちがやろうとしていることを一言で言うと、小学校ではエネルギーを体感するということで、中学校ではそれを式的に変換することで、量として扱うということです。
  ある面で物理学というのは、人類の科学のいちばん象徴たるものであり、その基本概念はエネルギーなのです。ということは、私たちの教育現場は、エネルギーというものを核にしながらそれを実感させ、エネルギーでもう一度教育的な価値を見直すことができるということです。

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